昔話

 

 一行が気付く前に蝙蝠を戻したロードクロサイトはすぐにハナモモへ念話を送るが、
もう一人の副将セイに説教されているらしく念話が上手くつながらなかった。
「起きてからローズに報告しておくとしよう。…戻る前に腹ごしらえするか。ローズ、貰うぞ。」
 一行がまだ宿の入り口にいるのを見るとロードクロサイトは窓から離れ、
丸まって寝ているローズに近づくと首元に噛み付き血を吸う。
「吸血行動はあまりみないのですけど…。すっごく痛そうな気が。
 実際前吸われた時痛かったですけど。どういう仕組みなんですか?」
 今の状況は絵的にどうだろうと思いつつ、
血を吸うロードクロサイトと寝ながら血を吸われているローズを見る。
吸血痕についた血を一舐めすると血は止まり、小さなあとを残してふさがった。
 
「仕組みといわれてもな…。普段は幻術をかけて痛みを軽減させたりするんだが…。
 大体淫魔でないから寝ているのから吸うのはあまりないしな。
 吸われた事のない人間などには眠りによって痛みの感覚を失わせるための睡眠魔法を使うが、
 ローズには最近全然そういうのをかけていないな。」
「まぁ師匠…ジキタリス様は痛みに対して常人と感覚が違いますから。
 血を飲んだ後だと傷をふぐことが出来るんですね。」
 
 
 階段を上がる音がし、扉をノックする音が静かに響く。
「あ、まだローズさん休んでいたんですね。
 もうすこし様子を見てから町を出ようかと思っているので、
 ゆっくり休んでくださいと伝えてください。」
「あぁ。少し疲れているようだが…休んだほうがいいのはチャーリー君のほうじゃないか?」
 ほっとしたようにいうチャーリーにロードクロサイトが促すと、そうですねと頷き出て行く。
 
「完全にばれてますね。多分。まだ確信はないでしょうけど。」
 まだチャーリーには魔物とばれていないだけましかと、
それでも突っ込みを入れたくて師匠の額をはじく。
低くうめきもぞもぞと動くと顔を枕に押し付け、すぐに息苦しかったのか顔を出す。
その後またもぞもぞと動くと自分で寝やすいポイントを見つけたのかぴたりと止まる。
「比較的仲がよかったというかローズがあの性格に若干嫌悪していたようだが、
 なんとなく本能的に見守っていたからな…。
 そういえば…あのあれが戦闘に加わっていたようだが…最近訓練でもしたのか?」
 何だこれはと笑いながら寝息を立てるローズの頭をはたく。
再びもぞもぞと動くが先ほどより早く静まり一見見た目では変な塊に見える。
ロードクロサイトの言葉に何を示しているのかと考え、すぐに答えにたどり着いた。
「さぁ?前にシィルーズに言われたことが効いたんじゃないですか?
 前には参加していませんでしたけど…。この4日間でなんか心変わりしたとか…。」
   さっぱり思い当たりませんというキルにそうだよなぁとロードクロサイトが返す。
まぁどうでもいいかという結論に達するとちょうど開いた扉に目を移した。
 
 
「あれ?まだこいつ寝てんのか。なんだよせっかくからかって遊んでやろうと思ったのに。」
「遊ぶんじゃないよ。プリーストがついさっきちょっとだけきてすぐに戻ったんだけど、
 熟睡するのに短時間でもぐっすり眠れるっていう薬。
 起きてからまた寝る前に飲ませといて。味は無味らしいから…
 まぁどっちにしろ寝るんじゃ大丈夫でしょ。」
 入ってきたファイターとアーチャーは寝ているローズを見ると邪魔とはたき、ベッドに腰掛けた。
場所を奪われたローズはもぞもぞと寝心地のよい場所を求めて動く。
 
「危ないッ!」
 慌ててファイターが手を差し伸べると、
ベッドから落ちたローズがその上に乗りもぞもぞと動くと不愉快そうに唸る。
「お前なぁ…さっさと戻れよもう!俺の腕は寝心地悪くて悪かったな!!」
 ベッドにおし戻され、しばらくもぞもぞ動くと隅のほうに収まった。