部屋に戻ると同時にボトッ、と何かが落ちる音がし唸る音が聞こえてきた。
向こう側に落ちたローズはそのまま頭をさすりつつ起き上がる。
「あ〜良く寝た。おはようございますロードクロサイト様。」
 大きく伸びをし、あくびを噛み殺すと窓から見える夜空に似あわない挨拶をした。
「おはようって…もう夜だ。まだ寝ぼけてるんじゃないのか?」
「そ〜みたいです…ね。」
 呆れるロードクロサイトにローズは肯定するが目が開いていない。
そのままベッドに倒れこむと再び寝息が聞こえ、キルとロードクロサイトは顔を見合わせた。
 ひとまずまた寝ぼけて起きても困るのでベッドに横たえると、
再びもぞもぞと動きやがて静まった。
「どんだけ眠るつもりだ?」
「とりあえず魔力が安定するまでじゃないでしょうか?
 怪我と魔力と疲労とが合わさっているようですし…。」
 キルも肩に手を置くと魔力をわずかに送った。
魔剣士なので魔力のほとんどは剣に吸われてしまう。
そのために鬼の術…凍てつく焔と魔剣士の燃え盛る焔を生み出す分の魔力だ。
ロードクロサイトは頭に手を乗せ魔力を送る。
膨大な魔力を持っているが大量に一気に送るわけに行かず、
数時間ごとにしているのだが相変わらず吸う魔力の量は変わらない。
 
「疲労?なにかしていたのか?」
「ロードクロサイト様にかわってフローラ様に定期報告、サルヤシンの拘束及び移動。
 早期治癒での不完全回復。自身の回復、弱体化による欠落した力を戻すためのトレーニング。
 魔物がタイミング悪くくるのを結界で防ぎ妨害、環境的なストレスと対人ストレス。
 それに暴走をみてから思ったのですが、
 最近天の者がそばにいたことで闇の水晶が反応していたのかもしれません。
 それらのどれかが疲労の元になっているのでは。」
 そんなに疲れていそうじゃなかったというロードクロサイトに、
ここ最近のローズの疲労の原因になったと思われることをキルは述べる。
その中の一つにロードクロサイトは思わず固まっていた。
 
 
「フローラに定期連絡入れてなかった!
 そういえば何かすることがあったはずと思っていたのだが…そうかそれか。」
 闇の水晶か不完全回復などの推測に何か言うのかと、
そう思っていたキルは膝ががくりと動き頭を壁に軽く打ちつけた。
「まぁ僕の勝手な推測ですが…。そこですか…。
 まぁフローラ様曰く、師匠様がやっているので出来ないとき以外は
 別にロードクロサイト様からでなくていいそうです。」
 その際に言われたどうせろくな連絡じゃないというフローラの言葉は自分の中にしまっておく。
 
 意外と仕事は仕事、と割り切っているようで報告はしているらしい。
その際魔王様がどうだのと言うあまりいらないのも若干入るらしいが、
必要な情報はまとめて話しているということにキルは今の態度から見てすぐには信じられなかった。
城にいるときなら話は別なのだが…。
「そうか。それじゃあ今夜ローズが目を覚まさなかったら私が連絡しておこう。」
 本来はあんたの仕事だと、内心毒づきキルはこっそりため息を吐いた。
 
 
 宿の中が静まり、そろそろ寝るかというロードクロサイトをキルが止めた。
「連絡、しましたか?」
「あ〜〜…。明日じゃ駄目か?」
 寝ようとしているロードクロサイトは冗談交じりにいうが、
キルに軽く睨まれフローラに念話を送る。
【あら、お久しぶりね。聞いた話ではローズが負傷しているとか…。大丈夫なんです?】
 繋げた早々言われ、面食らったロードクロサイトだが、
そうだと返答し誰から聞いたのかをたずねた。
【もちろん無断で出たハナモモから。
 あぁ、それでローズが負傷しているならと。周りに結界を張ってください。
 治療のため2名ほど向かうそうです。】
【朝からずっと寝ているんだが…。2人?誰だ?】
 ひとまず大騒ぎにならないよう魔物の気配を消す結界を張ると、
 フローラが答えるより先にコップが倒れ水が床に広がる。
水面が泡立つように盛り上がり、少量の水が増えやがて渦を巻いていった。