渦が消えるとそこにはヒレの様な耳をもち、
水色の長い髪に翡翠色の目をした女性と黒く荒々しい髪をし、
浅黒い筋骨粒々な上半身に黒毛の馬を下半身に持ったケンタロスが跪いていた。
「一軍副将権兼3番隊隊長渦のドラゴン、ミズチ=ドラン=セイ。
 まことに勝手ながら参上いたしました。」
「四軍4番隊特殊治療部医長ケンタロス、アロフェロックス=リキウム=ケアロス。
 フローラ様よりジキタリス様の応急処置をいたしたく、お許しもなく御前に参上いたしました。」
 お許しを、という2人にロードクロサイトは軽くため息を吐いた。
「押しかけておいて…。ローズのことはどうにかしたほうがいいと、
 思っていたところでちょうどよかったが…ばれてはまずい。
 言いたいことがあるが、今は早くローズを手当てして城に戻れ。」
 まったくというロードクロサイトに深々と頭を下げるとケアロスは4本の脚で立ち上がる。
馬と男性の上半身が組み合わさっているケンタロスは立ち上がれば、
背の高いロードクロサイトよりも高い。
部屋に馬が丸一頭いるような状況に部屋が小さくなってしまったかのような錯覚を覚える。
ケンタロスは魔界でも化身を持たない数少ない種族であり、
太古の昔から存在していたといわれるなぞの多い種族だ。
城では四軍の治癒部隊にほとんどが入っており、
薬草やその他もろもろの治癒に関することならば、
同様に四軍にいる鳥人のカラドリウス以外肩を並べるものはいないとされる。
また非常に賢く太古の記憶を代々受け継いでいるとか。
集落は深い森の中にあり、年老いたものや若い者はまず外では見ない。
死に際に自らを魔石にかえる仲間に渡すほか、めったに膝を折らずプライドが打ち砕かれようとすると自爆を選ぶなど、魔界の中でもかなり変わった習慣を持つ。
 
 
「先に聞きたいんだが…なぜセイまで?」
「ハナモモからききまして、詳しい情報をとまいりました。
 それに私の龍の血はごく少量ならば治癒能力を高めますので。」
 だからですと、水ドラゴンのセイは前に進み出ると寝ているローズの頭を持ち正面に向ける。
その際ローズの首が鳴るが痛がるそぶりはないので大丈夫なのだろう。
 セイが指から滴る血を口に落とす間にケアロスはローズの怪我の具合を確かめる。
「腕のほうは持ってきた薬草だけでは無理ですね。疲労と細かな怪我を治療いたします。」
 闇サイクロプスに殴られた怪我や擦り傷に手を当て治癒呪文を唱えるとセイは離れた。
ロードクロサイトといえどもさすがに鬼の血と同じで龍の血は口に含まない。
だが、手を払って傷を消したセイに眉を上げた。
「よく…化身の姿といえども指を切ることが出来たな…。」
「普通の刃物や魔法では私にはほとんどダメージが通りませんが…自分の歯でしたら。
 本来の姿では鋼鉄も飴同様ですし、化身のこの姿でも…。唯一ドラゴンの体を傷つけ、
 また噛み砕けないものはジキタリス様が持つ剣と同一の素材だけです。」
 そういうものかというロードクロサイトにセイはそういうものなんですと頷いた。
治療していたケアロスが振り向くと終わったことを告げる。
「治療は一応腕以外終わりましたのですぐお目覚めになられるかとおもいます。」
 ケアロスはローズの腕に包帯状のものを巻くと、首から吊るせるようにと三角巾を用意した。
「ご苦労。あぁ、そうだセイ。そろそろ勇者一行も城に向かい始める。
 と言ってもどれくらい先になるか分からないが…
 ゆっくりでいいから準備をしとくよう伝えてくれ。」
「承知しました。…念のために名前でよばさせていただきますが、
 ロードクロサイト様。人間の観察とはそんなに面白いですか?
 あっという間に育ってあっという間に寿命がきているではないですか。
 まぁつい最近まで大国であった国がいつの間にか種族ごとに分かれていたと思えば、
 また大国になろうとしている国があるように変化は激しいですが。」
 私にはよく分かりませんね、というセイにロードクロサイトは若干呆れる。
「ジョングオ地方のことか…。つい最近というが私の生まれる前の話だぞそれ…。」
 400歳過ぎのロードクロサイトの言葉にですよねと、人間の歴史を思い返していたキルも頷く。
さすがに4桁いくかいかないか分からないほど生きているセイだけはあって時間の感覚が違うと、
改めて魔界でもごく少数のドラゴンのすごさを思い返した。
本人曰くまだドラゴンとしては若年層だというのが更に驚きだ。