そして慣れない寝室で眠ること数刻。
ロードクロサイト以外いないはずの部屋の一角からかすかな物音が。
当の本人は起きることなく、侵入者は眠っている主の元へと行く。
間近になってからようやく気配に気がついたのか、もぞもぞと動き出した。
「…どうした…?ロー…ズ」
「はぁいvv」
 寝ぼけるながら感じる気配でいないはずの名を呼ぶとありえない返事が返ってくる。
その言葉にはっと目を覚ますと目の前ににっこりと微笑む…。
「何故!?ローズ!?!?」
「はぁい♪魔王様♪心配で来ちゃいましたw」
 躊躇なく飛びつくローズを押しのけ、薄い日の光を浴びる彼をまじまじと見る。
「だから一人で来るといったのに。あの勇者では望み薄だ。すぐ戻る予定だ。」
「いやです。大体あのパーティーは何ですか。まったく。大体勇者があんなデブなんてわけないじゃないですか。あの薄い髪の魔王様の傍にいたあいつですよ。まったく。」
 滅多に説教をしないローズだが、ロードクロサイトに向かって説教をする。
気を抜いていたとばかりに溜息を吐き、反省する魔王。
「大体、駄目じゃないですか。僕が入ってきたことにも気付かないなんて…。」
 じりじりと上半身を起こしているロードクロサイトに近づく。
さすがに身の危険を感じたのかじりじりと後退していく。
そっとロードクロサイトの頬に手を伸ばし、妖しい笑みを浮かべるローズ。
思わず冷や汗をかくロードクロサイト。
目前まで迫ったローズに反撃することすら忘れ、しどろもどろにローズを抑えようとする。
「照れなくてもいいんですよ魔王様w別にとって喰う訳じゃあないんですからww」
「いや…あのだな。そういうわけではなく…すこし…離れてはくれないか?」
 引きつった顔を浮かべ・・とっさに思いっきり足で蹴飛ばす。
これでも一応魔王。しかも最強と謳われている魔王。
吹っ飛ばされたローズは備え付けのテーブルにぶつかり、潰れたカエルのような声を残してその場に丸まった。どうやら急所に入ったらしい。
「まっ魔王様…ものすごく…反省しています…。嬉しいですが…三途が見えます…。」
「すっすまんが…ローズ。流石に魔王と呼ぶのはここではやめてくれないか?名前でいいから。」
 流石のローズも、手加減ほぼなしのロードクロサイトの蹴りにかなりこたえている様だ。
それでも、名前で呼んで欲しいという呼びかけに弱弱しくガッツポーズをとる。
「ただし…へんな呼び方をした場合、キルと交代だ。あの子もお前ほどではないが腕は立つし…。」
「大丈夫です!ロードクロサイト様。この僕がロードクロサイト様の名を呼べるとなればそんなへまをする訳ないです。えぇ。大丈夫です!絶対に言い間違えたりしませんから!」
 死にかけていたはずが急に立ち上がり、その場で大きく頷く。
その勢いに一瞬ひるむがロードクロサイトは身支度を済ませ、止めても聞かないであろうローズと共に待ち合わせの場所へと向かった。