町から少し出た場所にいたローズはチャーリーの剣を見ると頭を抱えたようにため息を吐いていた。チャーリーの視界に入らないように背後にいるが、しばらくすると木刀でいとも簡単に剣筋を止めてしまった。
「だからそう力任せにしないの。チャーリー君も僕と同じ柔の剣なんだから…。
 そうそ…だから違うってば!!そうじゃなくて…。」
「すみません…どうにもまだ刀に慣れなくて…。」
 やや顔を引き攣らせたローズにチャーリーは謝る。
普通の人が見れば十分すぎるように見えるがここは百戦錬磨の魔王と一番弟子の策士。
すぐさま不合格の烙印を頭の中で押す。
少し離れ再び素振りを見ているローズだがよほど暇なのか右腕だけで腕立てを始める。
【ったくソーズマン本当に教えるのへただなぁ…。もう…どうなっても僕知らないよ…。】
 ぶつぶつと呟くような念話が聞こえ、それが無意識に独り言を
念話で出しているというのに気がついているロードクロサイトらは短く息を吐いた。
【まぁ…出来る限り頑張ってくれ。
 さすがにそれではローズのいるエリアで終わりそうだからな…。】
【あ…きこえてましたか…。どうも念話は苦手ですね…。
 本当に呆れて言葉もありませんよ。そういえばキル。ウェハースのはいつにする?
 いちいち説明するのめんどくさいから…ってか絶対理解しないだろうから、
 寝ている間にロードクロサイト様とキルをつれて夢の中にはいろうかと思うんですけど…。】
 
 一区切りつけたローズはチャーリーに精神統一をさせ魔力を高める。
ローズも同じように精神統一し弱体化しているなりに魔力を高める。
【なるほど。淫魔の力で夢に入ればいいんですね。希少な分意外とすごいんですね…。】
【珍獣扱いしないでくんない?まぁ…その希少な淫魔と吸血鬼のハーフってだけでも
 ほかにいないけどさ。夢の中ならいるだけで精気吸い放題だしw
 本人に気付かれずにすむからこんな町でも大事にならないから安心だしね。】
【だから騒動にもなっていないのか。てっきり血以外飲んでいないのかとおもっていたぞ。】
 特に夜出かけてもいなかったからなと、ロードクロサイトが言うとローズは頷く。
チャーリーに魔法を見せると試させる。
 
 
【あ…結界お願いします。】
 ローズのやってしまったという言葉に、ロードクロサイトはすばやく結界を張ると2人を包み込んだ。
一瞬のうちに結界の中が黒く曇ると結界を震わし、衝撃波があたりの空気を震わした。
【げほげっほ…なんで僕達を包むんですか!!ロードクロサイト様たちだけを包んでくださいよ!
 おかげで爆発が全部こもって煤けたじゃないですか!!】
 結界を解くと煙が濛々と立ちこめ、ローズは暴発させた本人に回復呪文を唱える。
【衝撃だけは外に逃がしただろうが。火系か?】
【雷ですよ。火の魔力を高めたところで風を混ぜるのですが…
 見事に火の魔力を内側から吹き飛ばしまして爆発ですよ爆発!!!!
 ありえるかっ!!!魔法暴発ってどこのど素人だ!!95年ぶりですよ魔力の爆発見るの!】
 ふざけんなというローズのキレた声にロードクロサイトは惨いなぁ、とチャーリーのレベルを考える。
ローズ自体全魔法が使えるという異例な能力を差し引いても普通魔法の暴発は初心者で終わる。
 
全能の魔道師とも言われるローズが4つの魔法共に持っているとはいえ、5歳で暴発はしなくなったというように、練習初期で暴発すると気付いた時点で制御できるはずなのだ。
【ロードクロサイト様、キル。夕食までには戻ると帰ってきているのがいたら伝えてください。】
 ようやく回復したチャーリーを前にローズは微笑むと黒いオーラを立ち上らせる。
分かりましたというキルはロードクロサイトと共に宿へと向かった。
 
 
 夕食の時間ちょうどに戻ってきたローズは怒りマークを落としながら階段を上り部屋へ戻る。
その後を慌てて追いかけて来たチャーリーは泥だらけで息を切らし立ち止まった。
「どうしたの!?少し怪我している様ね…。」
 ネティベルとエリーはすぐさま階段上から聞こえた扉を閉める音を睨みつけ、
エリーにいたっては短剣を抜きかけている。
「あっ、ちがうんです。僕が魔法を爆発させちゃっただけで…。
 むしろローズさんに怪我させてしまったほどなので…。」
 慌てて息を整えたチャーリーはエリーを止めると怪我の理由を話す。
チャーリーが何らかの理由で脅されているわけではないと、そう判断したエリーは短剣をしまうと食事を取り始めた。
「どうしよう…すごい怒らせてしまったみたいで…。」
 どうしよう、とそう繰り返すチャーリーに見てくると伝え、
ロードクロサイトとキルが向かえば暗闇の中で青い目を光らせ、怒りに銀髪が発光しているローズに出くわした。部屋の温度は発火していないのが不思議なほど熱くなっている。
明かりをともせばすぐに四散したが未だ怒りは収まっていないらしい。
その証拠に闇の水晶が反応しローズの周辺だけ光が消えていく。
「ずいぶんとあの後酷かったようだが…。」
「あ、左手の包帯巻きなおしますよ。」
 恐る恐る近づくキルにようやく部屋の空気が正常に戻るとローズは深々と息を吐いた。
「まぁ…聞かないでくださいよ。説明するのも嫌なので。
 で、どうします?後ですぐに行きますか?」
 寝てからでないとできませんが、というローズにそれもそうだなとロードクロサイトは頷くと全員が寝静まるまで仮眠をとることにした。