ふわりと体が舞い、地面につくとローズが闇の中から景色を作り出す。
「あの執行場と同じほうがまぁ悪夢だ、とそう思うかと。
 あぁ、それと全員の姿は同じ背丈、同じ黒いローブを羽織った姿にしておくので
 姿等はご安心ください。」
 淫魔の力で作り出した夢の世界は殺風景な死刑執行場だ。
ウェハースがまったくの予想不可能な動きで逃げ出した場所。
そしてキルが完全に見限った瞬間の場所。
「便利ですね。夢魔とは違うんですか?」
「夢魔はここで臭いとか味とか…現実とまったく変わらない世界を作り出せるからね。
 僕も一応擬似的に相手の記憶から呼び出すよう幻術もかねるけど…
 やっぱり夢魔にはかなわないかな?
 大体現実にいるのが化身でこっちが本来の住処だからすっごい数少ないしね。
 糧も人間と同じで平気だし…。誤って夢の中で殺されちゃうとそれっきりだし。」
 ウェハースの夢と繋ぎつつ、最終調節をするローズはあったことないんだよねぇ、
とドラゴン以上に希少な夢魔についてキルに教える。
最近では精霊も見かけないため、ローズぐらいまでの世代しか精霊やら夢魔の話は知らないものが多い。
キルも情報を収集してはいるが同じ能力を持つ淫魔がそうそうにいるわけでもなく、
夢魔についてはフローラも会ったことがないらしく詳しい情報までは知らないといっていたのだ。
まだまだ情報収集が足りないなとキルは息を吐くとローズにより黒いローブ姿となる。
 
「それじゃああっちでもうウェハースが悪夢を見始めているから、
 僕があのときの狼男になって連れてくるからあとはよろしく。」
 ふっと姿を消すローズにロードクロサイトは軽い呪文を出すと空間が歪まないことを確かめ魔力の準備をする。キルも一息つくと後で魔剣をどうするかなと考え足音にローブを深くかぶりなおす。
今度はしっかりと押さえつけてきた狼男ことローズは2人の前にウェハースを突き出した。
 
「ウッド=ノーブリー=ウェハース。貴様は重大なミスを犯した。」
「なっなにが…。」
「罪人は罪人らしく黙れ。」
 押さえつける狼男に夢でない現実では撥ね退けられたがここは夢。
しかもローズなので立ち上がろうにも力がはいらない。
「こともあろうに一軍と四天王の命を危ぶみ、名誉を尊ぶ鬼一族ならびに魔剣士一族の名を汚した。
 よって両族から追放令がでた。
 本来死刑にしたいのだが、四天王長本人直々の訴えより人間界への追放のみとなった。
 よってこれより魔王様により魔界へもどれぬよう奇術をほどこす。
 これ以後、貴様は魔界には帰ることは出来ず、息子とも完全に縁が切れる。よいな。」
「ででっでも…そんなキルはこのことを。」
 黒いローブ姿の男の言葉にウェハースはもごもごというと顔の見えない男を見上げる。
「彼は優秀な子です。貴様の心配など必要ないほどなので貴様の考えることではない。」
 新たに現れたローブ男…狼男がいつの間にか樹木に代わってローズが加わる。
「せっかく弱体化までして軍から助けたのにここまで落ちこぼれとはね。がっかりだ。」
 ウェハースを先ほどから黙っているローブの男の前へと連れて行くと腕を出させる。
さぁ、と促す声にウェハースは慌てるがローブの男…ロードクロサイトはウェハースの肩に爪で傷をつける。それは魔人にとって死刑宣告と同じ追放の烙印。
「汝、我が神の領分とする場所への立ち入りを禁じ、
 未来永劫汚らわしき天の管轄とする領分に汝を縛り付ける。
 我らの領分に入りし時、全ての魔物が血肉を求め汝に襲い掛かるであろう。
 ここにその証として、目印として刻む。ウッド=ウェハース。
 汝、汚らわしき天の名と同じく二名だけとなる。これ以後永久に魔界の名は汝には与えられん。」
 刻印が赤く光り、焼印を押したときのように煙が出る。
あまりの痛みに叫ぶウェハースは刻印が消えると同時に徐々に消えていき、
キルはローブ姿のまま消える父の姿を見る。
なんの感慨もなく、こんなものかと肩をすくめるとローズの作り出した新たな夢の世界へと移動した。
 
 
「今度は丘か。よくこういうのが出せるな。」
「これは僕の記憶ですよ。そんなに早く作れませんから。これでまぁ一件落着ってとこかな。」
 疲れたと横になるローズに2人は辺りを見回す。
丘の下は川が流れ周りには山と森が広がっている。
丘の上には大きな樹が一本生え、その根元の陰に墓石が二つありその周辺に花が広がっていた。
「ここはどこの風景だ?」
「これからいくフレッシュミントのはずれですよ。
 あ、さすがにいくとその…いろいろあれなのでまぁなんというか…。
 村に行っている間はたいていここら辺にいると思います。
 現実のここには両親が眠っているので挨拶したいですし、
 まさかチャーリーの祖母である妹に会うわけにも行かないでしょうから。」
 大きく伸びをし、あの木が目印ですというと夢の世界から3人は出る。
ローズはそのまま誰かの夢にもぐりこんだのか寝ているがロードクロサイトとキルは目を覚ました。
「目が覚めても寝ていても意識があるのはなんというか不思議な気分だな。
 目が覚めたんだかねたんだか…。」
「そうですね。目が覚めたはずなのに元々意識が在りましたからね…。」
 なんだか変な気分だといいつつ眠った。