「おにぃ…ちゃ…会いたかった…。」
 顔をこすりつけ薄い茶色の髪を揺らすユーチャリスにローズは一瞬目をわずかに見開くとユーチャリスの肩に顔を埋める。
「僕も会いたかった。ほら、足怪我してるんだからおいで。」
「大丈夫よ。それよりお兄ちゃん左手怪我してる!」
 背負おうとしたローズにユーチャリスは慌てて左手の怪我を見た。
そういわれ今更気がついたように自分の左腕を見るローズは、
軽く腕を動かし痛みに顔を若干しかめる。
「あー…肘先動かないわ…。まぁ…ユーが怪我してなくてよかったからいいかな?」
「良くないよお兄ちゃん!あぁ、私も魔法がつかえたらいいのに…。」
 指先がどうにか動くからいいやと言うローズにユーチャリスはだめ、と袖をつかむ。
「ユーがそう思ってくれるだけで十分嬉しいよ。
 べつの怪我にまわしている回復をこっちにまわせばすぐ治るから大丈夫だよ。」
「でも…ほかに怪我って…。そうよ!
 ソーズマンならよくお兄ちゃんの怪我を手当てしていたから大丈夫ね!
 指、触っても平気?」
 飛びついたままだったユーチャリスは大丈夫と声をかけローズの体を見る。
大丈夫だよと言うローズの怪我をした手に触れ、痛くないかと問う。
指先はあんまり痛みはないというと労わるように軽く握った。
 
 
「チャーリー、お友達や仲間の人も早くおうちに案内して上げなさい。
 つかれているでしょうから。」
 振り返ったユーチャリスにつられるようにローズは振り向きかけ、すぐに固まる。
片手で顔を覆い、やってしまったとばかりに耳を下げうなだれた。
そんな兄に気がついたのかユーチャリスは半目で睨む二人に目をとめる。
「えぇっと確か…シルフさんだっけ?お兄ちゃんが好きなひ」
「わーーー!!わわー!ユッユー!!」
 首をかしげ思い出すユーチャリスの言葉にローズが慌てるとロードクロサイトが首をかしげた。
「確かにシルフだが…何を言いかけたんだ?」
「気にしないでください!えぇっと…ユーが言いかけたのは僕が好きな…ひ…
 そうだヒヤシンスみたいな色の髪をした人って言うことです。
 ヒヤシンスって結構小さい子向けな花のイメージがあるので、
 なんか恥ずかしいなぁとおもってつい…。」
 訝しげに問うロードクロサイトにローズは慌てたように、冷や汗をかきつつ説明すると若干腑に落ちない顔ではあったが、頷きローズの隣で笑うユーチャリスを見る。
 
 
 どこか似ている顔つきだがやはり髪や目の色のせいか赤の他人としか見えない。
本人には到底口が裂けても言えないことだが。
【やはり人間は髪の色などが違うと血のつながりが分かりづらいですね…。】
【確かにな。だから人間は異形のものを拒む。
 キル、分かっているだろうがローズに似ている似ていないだのは厳禁だ。
 なぜ歴代最強であり同時に歴代でもっとも多くの魔物を屠った勇者がこちら側になったのか。
 一番の要因はそれだ。】
 偶然か必然か、それらの場面に遭遇していたロードクロサイトは2人を見比べ、
首をかしげるキルに念を押す。
【聞いたことがあります。守るべき人間に裏切られ否定された勇者がいると…。
 師匠様のことだったんですか…。てっきりもっと昔の勇者かと…。】
【天性の勇者ではチャーリーの前だからな。最近のことだ。
 ローズの話はいろいろ情報が多いうえに、あの当時2軍にいたのは
 大抵キルの生まれる前辺りに死んだから情報が曖昧になっているんだろう。
 当時の2軍は過去の情報をほとんど片付けていないから…しかたない。】
 あの馬鹿…ホールディールのせいでなというロードクロサイトにキルは苦笑する。
未だにホースディールがいなくなった後の空白のおかげで未処理の物が多く、
最近になりようやくホースディールが残した過去の情報の半数が処理されたのだ。
ローズの情報まではまだキルは手付かずといったところがその多さを物語る。
当の本人はどこぞで生きているらしいがさすが2軍の四天王。
現在の半ギレ状態となっている2軍に未だ見つかっていない。