「ローズさん…それにおばあちゃん…一体…。」
 信じられないように呟くチャーリーに、
1人何かを呟いていたネティベルは確信を持つように頷いた。
だがその目はまだ信じられないといっている。
「まさか信じられないけれど…。
 ローズ…80年ほど前に魔王と戦い敗れたものの歴代最高の勇者…。
 その見た目と闇を照らす強い光に銀月の勇者と呼ばれた…
 そしてチャーリーの大叔父にあたるチューベローズ=ポウェルズ。」
 ネティベルの言葉に一行はわれ関せずと言った風に背を向け、
ユーチャリスの手を引き歩くローズを見た。
バンダナを取ってしまったために微風にもなびく髪を押さえつけ、
ユーチャリスの言葉に耳を下げる青年にも見える男を。
「まさか本当に…。」
 驚きで言葉を失う一行だが、だいぶ離れてしまった間に慌てて追う。
袖を引かれユーチャリスの示す方向を見上げると再びユーチャリスの言葉に耳を傾け、
しゃがみこむ。元が低いためさほど高くはなっていないが、
肩車で木の実を取ったユーチャリスは兄に笑いかけると次のと言い、ローズはそれに従う。
 
「昔はすっごい高いって思ったけど、お兄ちゃん背小さいよ。」
「ねぇユー…。僕なんか悪いことした?ユーと身長変わらないよ?」
 目に見えて落ち込むローズから降りると足元を見、目の高さを見るとニッコリと微笑み、ローズを撃沈させた。
「なんで僕の身近な人ほど僕より背が高いの?」
「いいの。お兄ちゃんはそれぐらいで。ちょうどいいの。ちっちゃい方が可愛いでしょ。」
 がっくりとうなだれるローズにユーチャリスが声をかけると更に落ち込む。
だがすぐさま顔を上げるとユーチャリスを抱え後ろに飛びのいた。
一瞬前にいた場所には火柱が立ち、ユーチャリスをおろすとローズは剣を抜く。
 
「剣技一の舞 疾風の剣」
「瞬速剣 火風鎌鼬」
 
 鋭い金属音が響き、剣が絡み合う。
「久しぶりだなローズ。」
「あー…なんかみんな喧嘩っぱやくなったなぁ…。」
 顔を付き合わせ、砂煙から出てきたのは初老の男性…
短い髪を逆立て、深い皺の入ったソーズマンだ。
ギリギリと剣を鳴らしつつ力をこめるソーズマンに、
ローズはすばやくしゃがみこむと懐に飛び込み持ち替えた剣を脇から狙う。
すぐに反応したソーズマンはそれを防ぐと返しざまに肘鉄を繰り出す。
剣を構えていたローズは慌てるように腕でそれをはじく。
と、バランスを崩しかけたところにソーズマンの剣がおろされ、
剣で迎え撃つが崩しかけた体勢と持ち替えたままであった左腕の痛みに支えきれない。
「ちょっ!!タンマ!!!左腕筋いっているんだから無理!!」
「あん?なに?筋痛めた?こん馬鹿!ま〜たどうせ余裕ぶっこいて遊んでたんだろ。
 ユーチャリス、この馬鹿のこと一発分殴ってもいい?」
 ほとんど左腕に剣を添えている形であったローズの声にソーズマンは剣を納めると
若干血の滲んでいる左腕に目を留めた。
ユーチャリスの返事を聞く前に懐に剣の柄を入れると崩れるローズを支える。
見ていたキルはその一撃が入った場所に一声小さく声を漏らし、痛そうだと眉をしかめた。
【この間のサイクロプスで怪我していた場所ですね。】
【あぁ、だから一撃で…。】
 回復魔法といえども一応安静にしていなくてはならない。
いわば薄皮張った状態に打撃でさすがの四天王長も痛みに目を回したらしい。
戦闘中でないこの状況だからこそのローズの姿に、手合わせをよくする2人はたまに見るなぁと、四天王がこんなのでいいのかと言う視線を送るエリーたちを見た。
「かるっ!!ウンディ…じゃなくてシー…ルフでいいのか、ちゃんと食わせてるのか?」
 支えていたソーズマンはローズを文字通り小脇に抱えるとロードクロサイトらを見る。
「人聞きの悪い…。その軽さは昔からだろうが。」
 元からだろうというロードクロサイトにそれもそうかと言うとローズの剣を納め、
ローズに抱え込むよう持たせると横抱きに抱えた。
「昨日収穫したかぼちゃのほうが重いぞこれ…。後で比べてみるか。」
「かぼちゃ…っ」
 相変わらずだというソーズマンの言葉に、
かぼちゃに比べられるローズを想像してしまったキルが必死に笑いをこらえる。
「キル、以前リンゴ2ケースで飛んだぞ。」
 てこの原理で、と付け足すロードクロサイトに今度はエリーが噴出す。
笑いを必死に咳でごまかすキルにソーズマンとユーチャリスは顔を見合わせ、
同じく噴出した。