「あるとき、あたし達は娘たちが人攫いにあった村で助けを求められて…。髪が長いローズが同行してあたしとプリーストの3人でそこにおとりとして向かった…。途中ローズとは別行動になってしまって…娘たちは助けられたのに助けたローズだけが戻ってこなかった。でも強いから大丈夫だってそう過信して彼女達を村に連れて行ったんだ。でも心配になって急いで戻ろうとした…。でもローズのいるところへの道中足止めをくらって慌てて駆けつけた時には…。」
 それ以上はその事件の話はするなと、ロードクロサイトが念を押すまでもなくアーチャーは首を振り話を続ける。
「そのあと人の心に闇をもたらす闇の水晶を破壊しに闇の神殿へと行って…。」
 闇の神殿といわれネティベルたちは思い出す。“代償は大きかった”と以前ファイターたち自身が言っていたはずだ。
「ローズはそれ以来時々心のバランスを崩すようになってしまって一時期は魔王城に行くのをやめようとまで俺らで話し合った。でもあいつは断固としてそれに首を振らなかった。皆が行かなくても自分ひとりで行くと。その後は四天王を皆で倒して魔王に挑み…。目が覚めたときには森の中で倒れていた。あいつ以外の皆が。」
 
 それが俺達の旅の全てだと、ソーズマンが言うと戸が開き、当の本人が座敷に上がる。
「まったく…人をそう過大評価しないでよね。僕に与えられた性がいろいろ間違ってんだし。にしても本当に下着一枚にされるとは思ってなかったよ…アーチャー…。」
「まじめな話しているときに下着とかばかいってんじゃないよ。って、ちょっとあたしの孫やそのほか未成年がいるんだから上半身に羽織るだけじゃなくてちゃんと着な。」
 腕を吊った状態のローズは上着を肩に掛けているだけで腕を通していない。
もう隠すのが面倒だといわんばかりに見えている勇者の紋を見たチャーリーは自分にある痣を思い出し、その色が自分よりも濃くはっきりしていることに気がついた。
「がっちがちに腕固定しておいてそれはなくない?で、あと僕は興味ないから丘に上がってるよ。」
「あ、お兄ちゃん。私も行く〜。お兄ちゃんに見せたいものもあるし。」
 そのまま部屋を抜けようとするローズをユーチャリスが追いかけ、ローズは念のためにロードクロサイトを見た。
【私はここで余計な話が出ないように見ている。両親の墓参りならさっさといってきてかまわん。
っと、できればあの臭い消しの実があれば欲しいとケアロスらがいっていたな…。
その話をしていたら興味があるらしかったが私にはどれがどれだかさっぱりだ。】
【かなり古い話に聞こえますが…。分かりました。多分ギリギリあると思うんで…。
許可ありがとうございます。キル、ロードクロサイト様の許可した記録だけは取っていいけどほかは駄目。禁止。】
 念話で行ってこいと言うロードクロサイトに礼を述べ、逐一記憶しようとしていたキルに念を押す。
 
「あの方が銀月の勇者様だとしてもなんで…人間ではないのですか?」
 ジュリアンの言葉にキャシーやポリッターもそうだと頷く。
再びロードクロサイトを見たソーズマンは詳しく分からないが、と口を開いた。
「あいつは初めからほとんど人間じゃない人間だった。
 どちらかと言うと白い光の翼を持っている時点で天界人…かな。
 そのくせ天界ではローズは魔王を倒すためだけの道具と、
 そう同じ仲間であるはずの天使にいわれていた。
 人間の世界にも天の世界にもローズは受け入れられない存在だったんだ。
だから人であることが嫌だったんだろ。居場所がなくて一人ぼっちだったから。」
 生まれたときから世界からはみ出ていたローズは、どんなに努力しても同じグループに入ることはなかった。
 
 
 魔界人になって目の前に現れたときロードクロサイトは目を疑ったものだ。
突然切りかかってきたローズと交戦し、半日掛けてやっと組み伏せ鎌を首にかけた。
少しでも刃を動かせば首が飛ぶ状況でローズは参ったと笑い出したのだ。
“僕と取引をしない?僕は貴方に僕の持てる全てと天と魔を滅ぼす破滅の言葉を
 貴方は僕に居場所を”
“破滅の言葉?”
 どこかできいたことのあるものだと鎌に手を沿えローズの出方を伺った。
“そう 魔の神も天の神もお互い忘れてしまったそれぞれを無に返す破滅の言葉
 生贄と魔力と言葉のみでできる唯一の呪文 
 僕だけが知っている僕だけが持っている天地創生の本に記された言葉”
 歌うようにつづる言葉はおもちゃを持った子供のように無邪気で恐ろしい。
はったりかと疑うがそうであったらどこでそれを知りえたのかが謎だ。
なら本物と考えたほうが早い。 “仮にも勇者だろうが お前に何のメリットがある”
 いつの間にか間に入れていた剣で鎌を押しのけ、
真剣な眼差しでロードクロサイトを見つめ答えた。
“メリット?生まれてこの方どこにもなかった僕の居場所が出来る それが僕の望む全てだ”
 
 手渡された古い本は今はもうない。
いまだローズが所有しているということにはしているが、
自分とローズの記憶の中に半数ずつ入れ、処分してしまった。
その記憶も互いの魔法で封印してしまったためそう簡単には開けられない。
ロードクロサイトの解除の言葉はローズが知っているのだが、
肝心のローズの記憶の解除の言葉を忘れてしまったということは彼1人の秘密ではある。
ロードクロサイトの秘密はすなわちローズが黙認していることでもある。
 
 
「居場所が無かったって…
 少なくとも人間の世界は勇者としての居場所があったんじゃないのか?
 両親やチャーリーの祖母…妹が居たならばその居場所だけでもあったはずじゃないのか?」
 エリーの言葉にネティベルもそれもそうよねと合意する。
一人考え込んでいたチャーリーは何か思い立ったのか顔を上げ、ベルフェゴに何かを問う。
最近めっきり痩せたベルフェゴは干物を食べながら何かを考える。
「じいちゃん、身魂の木ってうちにはばあちゃんのと、
 おばさんたちのと父ちゃんとオレたちのだけだよな。」
 ベルフェゴの口から食べ物以外の言葉が出たことにロードクロサイトとキルは驚き、
ネティベルやエリー、ポリッター達までもが驚く。
その様子に気がついたソーズマンらは苦笑し、チャーリー達の父ローズや、
お茶を持ってきた母ジェンダーもその様子に軽く笑う。 
 
「みたまのきってなぁ〜に〜?」
「身魂の木って言うのはこの村の風習で生まれた子供を祝い、一本木を植えるんだ。
 その木は成人になった後であれば本人がどうしてもいいということになっている。
 家を作るときや、大切な道具を作るとき、自分の死んだ後に斬って使うんだ。
 共に生長する木だからこそ身魂の木と言うな何だ…。
 つまりは村では大切な木なんだ。」
 首を傾げていくアイアンに父ローズはとても簡単にまとめるとそういうことなんだとやっと納得した。