「ちょっとまってください。先ほどチャーリーさんのお祖母さん、おばの方、
 ローズさん、チャーリー君たちって言いましたけど…
 お祖父さんやジェンダーさんのは…。」
 ポリッターが問うとネティベルはそうじゃないでしょ、
と言うがソーズマンはなんでもないように答える。
「俺達のはもちろん実家のほうにあるさ。そうそう移動できないからね。
 それでどうしたんだ?ベルフェゴ、チャーリー。」
 植え替えるわけには行かないからなと笑うとベルフェゴとチャーリーに問う。
「あの…ローズさん…大叔父さんのはないんですか?」
 チャーリーの言葉にキャシーやポリッターがはっとしたように気がつく。
「ローズ…チューベローズの身魂の木は…ないわけじゃないけどない。
 あいつ自身、あることすら知らず…ユーチャリスでさえ、
 父親の…ホスターさんが亡くなる前日まで存在を知らなかったんだ。
 同じ村の…すぐ近くに住んでいたのに俺やプリーストが、
 あいつをはじめて見たのはあいつが4歳のときだ。」

 
 自嘲じみたその言葉にロードクロサイトは突然の決闘後、
疲労で熱を出したローズに問いたことを思い出した。
“両親はいいのか?確か妹が居たはずだ”
“家族は大切だよ でも、両親の間には妹しか居ない 
 僕は望まれて生まれたのに望まれない子供だったんだ 
 だから勇者と言う場所はあっても僕自身の場所は無い ”
 だから来たと言うローズにさらに詳しく聞こうとしたが、
ロードクロサイトに凭れながら眠ってしまい、
その後のことやら何やらでそこらへんの事情を聞くのをすっかり忘れていた。
 
 
「どういうことです?奥様達の井戸端会議中遊ばなかったんです?」
 少なくともジュリアンはそうだったというと、
ポリッターやキャシーもまだ若いながらにそうだと考える。
実家に戻れば近所には幼馴染が居ると。
「3歳になるまでずっとホスターさんが農具の入った籠に入れて畑に行ったり、
 偶に夕暮れの魔獣がもうすぐ出て危ないような時間に、
 ほんの少し散歩に出ているぐらいで、後は両親が居ればリビングの中、
 ローズの母親…シュリーさんしか居ないときや両親が居ない時は窓がふさがれた、
 小さな部屋で暮らしていたんだ。
 だから初めて会ったときなんてほとんど日に浴びてないおかげか青白い肌で、
 挨拶も知らなければ人との接し方も何も知らず、体力も力もほとんどなくて…
 長時間日に当たるだけで具合が悪くなるような奴だった。」
 今でも色白だけど、と付け加えるとファイターがそうだったのかと頷いた。
「あいつは生まれた時からあの髪に目だったらしく、異形の姿に拒絶されていたんだ。
 だからだろう。生まれたときに植える木と言うのは村の仲間である証。
 それをもらえなかったんだ。そうだろ?ソーズマン。」
 アーチャーはそっと自分の髪で隠した右目を触る。
アーチャーの言葉にソーズマンは頷き、チャーリー達を見た。
「叔父さんたちの時代は一番厳しいときでしたからね…。」
「まぁな。でも暮らせないほどじゃなかった。ただ、皆不安だったんだ。」
 息子であり、親友にちなんだ名前をつけたローズに頷くと、
一行とロードクロサイトを見る。
 
 
 キルにいたっては、逆に髪や目の色が変わった鬼が生まれることは
良いことが起こる前触れとされ、大切にされるためその発想が想像つかない。
九尾一族にいたってはタマモのような銀髪は金髪の次に大切にされ、
どんな下級に生まれたとしても長と同等の扱いを受ける。
 ロードクロサイトはロードクロサイトで奇抜な色の髪をしたものや、
左右違うオッドアイも数々見てきたため、
最初は人間では珍しいと思ったが今ではまったく気にならない。
「少し話は変わるんですけど、
 実際魔王城に行くまでにはどれほど強かったのかしら?」
 伝説とさえ言われる勇者一行の要。
幼少をそんな環境で過ごしながら最強とさえ歌われた勇者の実力を知りたいと、
ネティベルが言うとソーズマンらは若干首をひねる。
「ローズは4歳から呪文や剣術、体術を学び、
 ますます普通の子供とはかけ離れていったような奴だったからな…。
 最初はともかく、6歳になった頃からは手合わせで
 一歳年下のあいつとは何十回やったうちの俺は4・5回勝っただけで
 ほとんど完敗だったな。
 15歳になるときには師匠である親父が教えることもなくなった上に、
 近くでは剣豪で通っていたのが勝てなかったかな。
 呪文も5歳ぐらいのとき派手に失敗したぐらいで…
 旅の途中にはもう闇呪文以外ほぼ全部会得してたし…。」
 闇の水晶以来、闇魔法も極めたっけ、
というソーズマンにポリッターやネティベル、チャーリーは愕然とする。
 
 ポリッタ−は最近やっと上級魔法を会得し、
最上級である究極魔法を会得すべく練習中だ。
ネティベルも聖魔法や回復魔法はほぼ極めたが、
攻撃系となると究極呪文を完全に会得するにはもう少しかかる。
チャーリーにいたっては風と火を上級まで使えるようになり、
合成魔法である雷の上級を会得中で光に至っては上級魔法に入ったばかりだ。
「あの時の事件と闇の水晶さえなければ魔王に勝てたかもしれなかったんだ…
 と思うぐらい強かったな…。」
 ファイターは確かめるように言うとロードクロサイトをちらりと見る。
 
【まぁ確かにローズは人間だった頃ではあの連戦の中、
 お前達を庇いながら戦い魔法を使わない得物同士の戦いで息をつく間もなく
 全力の戦いを2時間行ったからな。
 最終的には体力が尽き、戦う力が消え、
 魔王城で初めて戦闘不能状態での決着でない終わり方だったな。
 魔界人になってからは半日の間、魔法を含めた戦いをしたが…
 体力があれば五分五分だっただろう。】
 念話でその問いに答えるとファイターとアーチャー、ファイターは驚き、
顔を見合わせた。