ほどなくして突然眩い光と共に戻ってきたローズはユーチャリスを下ろし、
複雑な表情で自分を見る一行に呆れる。
「まぁた人の過去を…。ソーズマン、余計な話してないよね?
ほっとくと本当にもう…。で?何?」
【なんで止めなかったんですか。】
何かを言いた気な一行を見回し、2人に念話を送る。
【知っている話ならまぁ止めたかもしれないが、ほとんど初耳だぞ?】
【止める止めないは情報があった上に検討するものじゃないですか?】
2人から言われ、ローズは小さくため息をつく。
【そんな昔の話…。結構どうでもいい気がするんですけどね。
どうせ面白い話なんて一つもないんだし…。】
不満気に言うローズは口を開きかける一行にやっぱりかと大きく息を吐く。
「あの事件っていうのはいったい何があったのです?」
それさえなければ魔王を倒せたかもしれない、
という3人の話にジュリアンは何が起きたのかと、本人に問う。
ローズが言う必要はないと口を開きかけ、意外な人物の返答に驚く。
「ジュリアン。その話はやめたほうがいいわ。
あまりいい話じゃないし、魔王とは関係ないわ。」
「へぇ〜。何が起きたのかわかっているような感じだね。」
ネティベルの言葉にローズは不審そうな目で見る。
「貴方がそのときに助けた多分最後の女性…馬で逃した女性は私の祖母よ。
事件の話しでもしかしてと。」
まさか貴方だったなんてと言うネティベルにローズは笑い出す。
「本当になんていう縁だろう。彼女の子孫だったなんて。そうだよ。
僕はあいつらに全てを踏みにじられ、
弱体化までして体に家畜のような焼印を入れられて。
勇者の性である人を傷つけない、憎まない、疑わない…
全てを捻じ曲げるほどの憎悪と殺意と…負の感情を突然目覚めさせられて
全てを狂わせたんだ。それまでどおりになると思うかい?」
狂気の渦巻く瞳に一行は押し黙る。
当時を思い出したのか手を握り締め、慌ててユーチャリスが手を添えた。
握り締めた左手を開かせ滲んだ血をふき取る。
「わるいローズ。思い出させて…。さて、すっかり暗くなったな。
チャーリー、飯ができるまで剣みてやるよ。」
夕暮れが迫り、暗くなってきたとソーズマンは部屋の空気を入れ替えるように戸を開け放ち、
孫らに言う。
疲れたといい、横になって休むローズにユーチャリスが付き添い、
ロードクロサイトとキルもその場に残る。
「天界に行ったわけではないのになぜ90歳よりも若く見えるんだ?
ローズはまだしも…。」
妙な沈黙を破るように切り出したロードクロサイトにユーチャリスは首をかしげた。
「見たところ魔力もないようだし…。」
「多分お兄ちゃんが持ってきた種が原因かな?
人間の世界のじゃないってクラリスさんが…。
吸血鬼って昔からまったく変わらないのね。」
寝ているローズを膝に乗せ、
髪を撫でるユーチャリスはロードクロサイトを見ると変な感じと言う。
「あぁ、以前ローズが何か珍しい種を手に入れたとかいう奴か。
吸血鬼が年をとったら人間から血をもらえないだろうが。」
「そうね…。それじゃあお兄ちゃんも血を飲むのね。」
当たり前だろうというロードクロサイトにユーチャリスは沈んだような声を出す。
ローズは相変わらず耳を動かしつつ寝息を立てている。
台所から声がし、呼ばれたユーチャリスはローズを降ろすと部屋を出て行った。
「ローズ、いつまで寝たフリしているんだ?」
ユーチャリスが立ち去ったのを確認するように、
耳が動いていたローズにロードクロサイトが声をかける。
「あ、ばれてましたか。どうしても耳が動いちゃうんですよね…バンダナがないと。」
「髪を触られたときから起きていたな。」
すぐに目を開けたローズは起き上がり、魔力でバンダナを作り出し巻く。
インキュバスの化身姿が蝙蝠翼の生えた犬のせいか、
尻尾の代わりに耳が良く動き、感情を表す。
バンダナを巻いているときは不思議に動かないのだが。
「引っ張られたり、何かしらかの敵意に似た感情を感じたりすれば誰でもおきますよ。
鈍感じゃないですからね。」
誰かさんと違って、と言外に含ませるとやはり気がつかないロードクロサイトは
それもそうだと頷いた。
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