結局ユーチャリスに捕まり、
妹夫妻と一緒に寝ていたローズは朝から山菜を取りに行き居ない。
「そういえばロードクロサイトさんはローズさんのこと知っていたんですか?」
 暇だと、縁側から外を見ていたロードクロサイトにチャーリーが声をかける。
「まぁ当然…そういえばあの不思議な花とか言うのはどこにあるんだ?」
 最近、最初の頃と違い素の言葉遣いに戻っていたロードクロサイトは、
もうめんどくさいとばかりに戻さない。
そういえばと思い出し聞けば家のうらにあるという。
ぜんぜん気がつかなかったなと内心つぶやくと裏に回り、
目の前に見える花に目を止める。
 
「あ、ロードクロサイト様もいらしたんですか。
 珍しい種だとは聞いていたんですが…。うちのもあるんですよねぇ。」
 ちょうどユーチャリスに連れられてきたローズは、
ロードクロサイトとキルに気がつくと目の前に揺れる花を見た。
「たしか…魔界ではもうわずかにしかないといわれているのじゃないですか?
 師匠様の屋敷にも生えていますが…。
 “水晶草”“結晶華”“凛音”などと呼ばれている魔草ですね。」
 風にゆれ、澄んだ音を立てる花は色とりどりに光り、
きらきらと幻想的な風景を生み出していた。
「摘むとすぐ色あせちゃうから見ているだけなんだけど、すごいきれいなのよね。」
「あぁ、この花はすぐ水に入れなきゃいけないからね。
 しかも切ったときに出る汁を吸いださないと水吸わないし。」
 リン、と音を立てながらローズは無造作に一輪積むと切り口をくわえ、
眉をしかめると吸い出したものを横に噴出した。
花は手に持っていた桶に入れ、水にすぐつけるのは忘れない。
「にっがっ…ユー、かなり渋いからソーズマンあたりにやらせたほうがいいと思うよ。」
「これで少し長く持つのね。あっ、そうだ…。今思い出したんだけど、
 クラリスさん今日のお昼ごろ街から帰ってくるってチャーリーにいい忘れてたわ…。」
 不意に思い出したように顔を上げたユーチャリスは飛んできたスリッパをこめかみにもらい悶絶する兄を見るとえへっ、と笑う。
ローズ同様にまったく気がつかなかったロードクロサイトは不意に漂う
某年齢不詳の召喚術師同様の気配に誰なのかを推測し、
スリッパを蹴り飛ばした張本人を振り返った。
スリッパが頭上すれすれを飛んでいったキルはかなり驚いたらしく目をしばたかせている。
 
 
「こぅらぁこのガキャァア!!!」
「クラリスさん!?あったったたたたた!!髪の毛引っ張らないで…いたっ!」
 手元に残されたもう片方のスリッパで駆け寄るなり爽快な音を立て、
前髪を鷲掴みにした女性にローズは痛む頭をかばえず、
若干涙目で見上げがみがみとしかられていた。
 
「クラリスさんが一番お兄ちゃんのこと気にしていたのよ。」
「あ〜…つまりは愛情表現ですね。」
 小さな子供のような自分の師匠の姿に若干半目になっていたキルに
ユーチャリスはこそっと言うと、
元気そうで何よりと頭をなでられる姿にそういうことですか、と理解する。
新しく巻いていたバンダナ越しとはいえ、容赦ないなで方に髪が乱れ、
ローズは撫で付けると、
旅に出た80年ほど前からほどんど変わらない姿のクラリスを見上げやっぱりという。