「…?キル、家周辺にいてくれ。」
「はい。これは光魔法…ですか?それに近い気のような気がしますが…。」
 ロードクロサイトは光魔法が家の中で唱えられたことを気配で察するとキルをおき、縁側をのぞく。
そこには眠っているユーチャリスと困惑した表情のチャーリー、ソーズマン。
そしてクラリスの姿があった。
 
 
 少し強めの風が吹く丘には一本の樹が立っており、
その下に墓石と思われる2つの石と夕日を前に樹に寄りかかる影がある。
「どうしたローズ。光魔法なぞ…。」
「あぁ、すみません…無許可で…。」
 うなだれるように樹に寄りかかるローズに問えば振り向きもせず、
風に髪をなびかせるがままになっていた。
「チャーリーと戦うのをやめてくれと。
 僕が本来の役目を果たせばいいのになぜ帰ってきたのかと…。
 妹に…ユーに言われちゃいました。」
「なぜか…か。妹には何があったのか話さなかったのか?」
 彼女のことを思えば確かにそうですよね、
と元気の無い小さな声でロードクロサイトに伝えるとロードクロサイトの問いに頷く。
闇の水晶から得た人の本性とも言うべき行い。
それを見せられ、そして同時に思い出してしまった封印された一ヶ月間の記憶。
「ソーズマンから全部聞いていたそうです。でもユーは…そのあとのことを知らない…。
 僕が一人で旅をして何を見たのか!!
 つい口論で水晶が見せた幼い頃のユーの本音について口走ってしまったら…
 ユーに嫌われちゃいました。」
 当然ですよね、と自嘲気味に笑うローズだが、
ロードクロサイトは握り締められた拳から滴る赤い雫に気がつき、頭に手を載せた。
口論といってもローズは激しい言葉をほとんど使わない。
ほぼ一方的に言われていたのだろうなと、くしゃりと軽く頭をなでる。
「記憶を消したのか。」
「はい…僕の声や姿、名前…。ソーズマンが帰ったその翌年僕は死んだ…と。
 そう書き換えました。魔王を倒せなかった…人間を裏切った兄の記憶はもうありません。
 ユーがそれを望みましたから。」
 声を震わせるローズをロードクロサイトは背後から抱きこむと、
堰を切ったかのように崩れるローズを抱きとめ、肩を軽く叩いた。
「大切な妹だったのだろうが。嫌いになったのか?」
「大切な…大切な妹だからこそ…。唯一僕の前で僕を否定しなかった肉親です…。
 嫌いになんてなるはずがありません…ユーチャリスはこの世で一番大好きで…
 家族として、妹として愛していた僕の兄妹です。」
 われながら馬鹿な質問だなと、ロードクロサイトが問えばやはりローズは否定する。
「すみませんちょっと顔洗ってきます。
 すぐいけるようプリーストを呼び、少し話してきますので明日また連絡します。」
 しばらくうなだれたまま静かにぽろぽろとこぼすと、さっと目をぬぐい、
かみ締めていた唇から出ていた血をそのままに泉へと消えてしまった。
 
 
 ロードクロサイトがチャーリーの家に戻ると丁度ユーチャリスが目を覚ましたところであった。
ぼんやりとした様子のユーチャリスにチャーリーは心配げに覗き込み、
ネティベルが異常はないか調べる。
「おばあちゃん、大丈夫?」
「あら…チャーリー…。どうしたのかしら…少し寝てたのね。なんだか少し頭が痛いわ。
 何か…大切なものを忘れてしまったみたいな…。だめね。年をとるとどうも物忘れがするわ。」
 いたって普通に受け答えするユーチャリスはぼんやりと遠くを見つめ、頭を振る。
「そういえばチャーリー達みんなお兄ちゃんと同じ魔王城を目指しているのよね。
 でも私よりソーズマンたちに聞いたほうがわかるよ。
 お兄ちゃんは絶対帰ってくるって言ったのに死んじゃったから…。
 もう昔の話で顔も…声も忘れてしまったから。役に立てなくてごめんね。」
 そうチャーリーの頭をなでると少し歩いてくるわと、ソーズマンと共に出かけてしまった。