うなり声だけでびりびりと静かな振動が足から伝わり、
まだ200mはある距離が一瞬わからなくなるほどの巨体。
臆してしまう少年少女達を尻目にローズは一歩前に出る。
「久しぶり。おとなしく封印されててくれればよかったのに。
大体その威嚇のための巨体は何?あんたもうすこし小さいでしょ。」
《その声は憎き銀月か。なるほどなるほど。噂は本当のようじゃな。
人間から魔物になったと。貴様のおかげでまだわしはここから動けん。
貴様を食らってわしは人間を腹いっぱいに食いに行こう。》
足かせのついた龍はやや小さくなった、それでも十分大きな体を揺すり地を踏みしめうなる。
冗談じゃないよ、というローズの言葉を合図にするかのように一行は戦闘準備へと移った。
「吹っ飛んでください!爆裂猛虎鋭爪(ばくれつもうこたいしょう)」
先制攻撃を仕掛けたのはジュリアンだ。爆裂の魔力をこぶしに宿し、思いっきり殴りつける。
《ふん。わしにそのような攻撃効くと思ってか小娘。》
「キャシーちゃん、今です!」
ジュリアンへと首をめぐらせた老龍に今度は土で固められた矢が突き刺さる。
だがそれもわずかに身震いしただけで簡単に落ちてしまった。
《ばか者が。わしにそんなもの効くはずがないだろう。ぬぅ、小僧か!》
口に炎をため吐き出そうとした瞬間、雷が鱗に当たり老龍は怯むとチャーリーをにらみつけた。
尻尾を大きく振るとチャーリー達をなぎ倒そうと地を削り、大きく吼えた。
「兄ちゃん!左!ジュリアンさんは後ろ足くるよ!」
次の攻撃を読むように、震えながらも気配を察知するベルフェゴは
必死に逃げたくなる足をこらえ、危険を知らせる。
その言葉にチャーリーとジュリアンはよけると再び懐へと入っていった。
「全てを統べる母なる大地よ。その気を高め、我が力となり助けよ!強化魔法:地気」
「全ての生命の源よ。純粋たる源の力、しみ出でる太古からの流れを我が力となせ!
強化魔法:水源」
「全てを生み出し破壊する紅蓮の力。激しく燃え上がる灼熱の力よ我に力を与えよ!
強化魔法:火烈」
「全てを駆け巡り、全てを知る姿なきその力。重き物を動かす無限の力を今我に与えよ!
強化魔法:風烈風力」
3人による属性強化魔法が唱えられ、ローズは自身の属性を均等にコントロールする。
「光を覆いし絶対の闇。全てを覆い、全てを隠す漆黒のベール。その黒き闇を今我に!
強化魔法:闇闇」
「星の光、空の光、輝く金色の道。光なき夜も道を照らし、闇を払う暖かく柔らかな光。
光無き夜は無く、光は我と共に。強化魔法:夜天光」
ロードクロサイトの闇属性強化魔法が唱えられ、崩れそうになるバランスを光属性強化魔法で踏みとどまる。
「大丈夫か?随分不安定だが…。」
「大丈夫です。これからもっと不安定になると思うんで…合図をしたら結界お願いします。
キルはロードクロサイト様のそばから離れないでね。」
脂汗をかくローズにロードクロサイトは声をかけるとまだ大丈夫だと言う。
「3人はあっち手伝いに行って。合図したら全員すぐにこっちに連れてくるように。
…やっと安定してきた。さて…仕上げ仕上げ。
戦いの記憶は風に流れ流れていく。 炎は烈火のごとく燃え盛り 内なる力を解き放つ。
全ての足場は 固く貴方を包む。生命に流れし命の水は 貴方の体を駆け巡る。
内なる力を解き放て。ここは戦場 本能の赴くままに敵を狩れ。汝らの力を高鳴らせよ。」
強化魔法を唱え終わった3人をだるそうにあっち、と追いやると能力強化魔法を唱える。
その能力強化の歌に聞き覚えのあるポリッターだったが、
キャシーの援護のためすぐに行ってしまった。
当の本人は最大限まで高めると余分な力を抜く。
「恐ろしき音を響かせ鋭き刃を持って引き裂け!その怒れる力を持って地を揺らせ!
究極雷魔法来如雷霆収震怒」
左手に閃光のような激しい光が集まり大気を振るわせる。
「でもそれだけでは奴を倒せないんでしょう?」
究極魔法を唱え、それを手元に残すローズにネティベルはどうするのかと尋ねた。
だが、それに答えているほど余裕がないのか黙ったまま集中するローズはそれを球状に握りこむ。
「そのまま状態維持…アジュ!」
威力もそのままに保つと次の魔法の準備をする。
「吹き出でる大地の怒れる血潮。そのあくなき破壊の力で吹き飛ばせ!
究極爆裂魔法:爆裂噴火」
握りこんだ光の玉が激しく光り輝き、形がゆがむ。
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