【雪ん中で遊んで何が楽しいんでしょうね?】
 本当にこいつはあれだなと呆れるロードクロサイトはローズからの念話に視線を落とした。
マントを巻きなおしたついでに出ている顔を最小限にしたのが原因か、
マントとプリーストの用意した毛布の間から青い目だけが覗き、
なんともいえない物体になっている。
「あぁすまん。風邪引いたりでもしたらハッコンやヤタガラスの二の舞だからな…。」
「え?」
 首をかしげるローズになんでもない、と見えていた隙間をふさぐ。
もがくローズを簡単に止めると布の塊と化したそれを持ち、
吹き飛ばないジミーの帽子を見た。
手で押さえているわけでも、どこかで留めているわけでもないのだが、
まったく動いていない。
エリーは突風時には押さえているが、
基本的に中に詰まっている髪のおかげかさほど動いていない。
 
 
「さっきの魔法でだいぶ天気荒れているみたい。こっちに洞窟あるから…。あっ!」
 やはり強力すぎたのか、天候すらおかしくさせてしまった魔法の影響で荒れているという。
こっち、と洞窟へ誘導していた手前、ロードクロサイトらの足元に亀裂が走った。
すぐに飛びのいたロードクロサイトだが一行との間に溝ができてしまい、
またげる距離ではない。
「ローズ、寒いだろうが片腕出して首にしがみついてくれ。飛ぶぞ。」
「え??ちょっちょっとまって…。」
 慌てて無事な右腕を出すとロードクロサイトの首にすがりつく。
(めっちゃ顔近っ!っていうか…顔冷たくて寒い…。でも…幸せ…。)
 羽なしで飛ぶために距離と風を図るロードクロサイトを尻目に、
しがみつくことに見えないところで顔を緩ませるローズ。
つっこみ役がいないため、お咎めは無い。
「岩壁に指を食い込ませれば大丈夫だな…。片手離すぞ。」
「大丈夫です!しっかりつかまっているので!!
 もうこれ以上ないってぐらいにしがみついているので!」
 軽く助走し、途中の岩壁に指を食い込ませるとそれを使い、壁を蹴り上げ跳躍する。
幸せ〜としがみつくローズはすぐ耳元で聞こえたロードクロサイトの声にデレ、
とだらしない笑みを浮かべた。
 
「ローズ、もう話しても大丈夫だぞ?腕が冷える。」
「はわぁ〜…はっはい!」
 慌てて手を引っ込めたローズにロードクロサイトは、ん?と顔をまじまじと見る。
「どうした?顔が赤いぞ?冷えたか?」
「え?なっなんでもないです!そうですちょっと冷えたんです。大丈夫です。」
 顔が赤いといわれ、ますます顔を赤らめるローズはもぞもぞと、
ロードクロサイトへ顔をうずめ、赤くなった顔を隠す。
真っ赤になった顔は見えなくなったものの真っ赤になった耳をパタパタと動かした。
 
 
「たぶんすぐ吹雪は止むと思うんだけど…。あ、ほら。だいぶ止んできた。
 皆大丈夫?」
「プリーストさん、もう少し待ってもらっていいですか?
 ベルフェゴ、無理しなくても大丈夫だよ。」
「へっ平気…。少し寒かっただけ。兄ちゃん、おれよりもみんなは大丈夫?」
 疲れた顔のベルフェゴを振り返ったチャーリーはその言葉に全員を見回す。
ポリッターやキャシー達はまだ疲れた顔で座り込んでいる。
「そうね。一晩とまっても大丈夫でしょう。
 ロードクロサイト、それこっちもってきて。左腕と足の薬の塗り直しするから。」
 入り口はエリーの氷魔法でしっかりと塞がれ、風は入ってこない。
ポリッターの炎魔法で爆ぜる焚き火を囲い、くつろぐ。
その火を囲う一行から若干離れたところで下ろされたローズは、
離れたロードクロサイトにぶつぶつと呟いた。
「馬鹿なこと言ってないでほら、薬湯のんで。痛み止め。」
「ねぇなんで薬の味とか上達しないの?
 セングルーさんの作る薬はぜんぜん苦くもなんともなかったんだけど…。」
 プリーストに渡された薬湯に眉をしかめ、
プリーストの母セングルーの作った薬湯を思い出したローズは不満げに呟く。
「いいの!大体こっちのほうが断然効果あるんだから!ほら、眠いでしょ?」
「痛み止めじゃなくて…おもに睡眠薬じゃん…。」
 なんかおかしくない?と呟くローズはそのままロードクロサイト側に倒れ、
強制的な眠りについた。
 
「ここまで来ると執念だな…。」
「なんでこうもうまく倒れるのかしら?しかも髪の毛掴んで。」
「ローズ!髪を引っ張るな!こらっ!」
 ある意味関心ものだとエリーとネティベルがいうなか、
ちょうど結びなおしていた髪をつかまれたロードクロサイトは大きくため息をついた。
無理に取り返すことをあきらめ、そのまま横になる。
ほどなくして一行も寒くないよう身を寄せ合いながら眠りにつくと、
寝たふりをしていたロードクロサイトは目を開けた。
起こさないよう牙をむくとすぐ横で丸まっているローズに噛み付き、静かに血をすする。
いつもどおり止血をすると若干体温の下がったローズを抱え込み、今度こそ本当に眠った。