ぐっすりと眠っているでかい男とちっこい青年にプリーストは無言で魔道書を下ろす。
「おはよう。」
「あぁ、朝か。」
 同時に手を伸ばし、魔道書をつかむ魔王と四天王長。
が、実際受け止めたのはロードクロサイトでローズの手は若干届いていない。
 朝から落ち込むローズを抱えるロードクロサイトを含めた一行はさらに頂上を目指す。
「身長も違えば肩幅も違うんだ。当たり前だろうが。」
「それでもかなりショックですよ…。
 はたから見たら手が届いてない間抜けですよ?
 まだベルフェゴとジミーしか起きてなかっただけましですが…。」
 吹雪いてはいないため、顔を出すローズは重いため息をつき、とりあえず腕が痛いという。
 
「そういえば修行がどうとかいっていたが…。」
「この先ですよ。魔物に似せた怪物が跋扈しているのは。
 勇者が魔王と戦うに相応しいレベルかどうか…
 ここで図るのと足りない分などを補うんです。
 まぁ正直平均レベルが低いので結構強いのが出てくるかと…。」
 とりあえず今はロードクロサイトにしがみついてよう、と上機嫌に耳を動かした。
ふと、何かの予感がし、念話が聞こえてこないよう“耳”を塞いだ。
心の中でロードクロサイト様すみませんと思いつつ。
【ロードクロサイト様〜〜〜!!!ジキタリス様は無事ですか!?】
 まったく備えをしていなかったロードクロサイトは一瞬くらりと眩暈を覚えるが、
すぐに苦笑いをしているローズを睨み見た。
【いきなり大声を出すな。この前のヤタガラスといいハッコンといい…。】
 まったくこいつら…と頭が痛くなるのをこらえ、そう返せばハナモモははい?
と念話の向こうで首をかしげた。
【なんかあったんですか?この間、鴉と狐を懲らしめましたが…。】
【セイか…。その二匹だが死なない程度に許してやれ。】
【セイとハナモモ…。またなんかしたの?】
 しらばっくれるセイに呆れるロードクロサイト。そしてやや疑った声のローズ。
目の前では念話とともに現れた狼のような魔物の群れと一行が交戦中だ。
ローズを抱えているということで見ているロードクロサイトはため息をつく。
【べっべつに何もしてないです。】
【そうです。ちょっとかじったぐらいです。】
 しらないも〜んという態度の二人にローズも頭痛を覚える。
 
 
【ハナ、あとで問答無用の玉ねぎね。セイ、部屋にある地底湖凍らせておくからね。】
【たっ玉ねぎ!!】
【私の寝室!!】
 ローズの笑顔が見えるほどの声にハナモモとセイはひぃぃ、と声を上げた。
【…ハナモモ死ぬぞそれ。】
【大丈夫です。具合が悪くなる程度で。
 それにセイも眠れなくなるだけで問題はないですから。
 いいこで待ってない家族はお仕置きするのが家主として当然ですし。】
 大犬であるハナモモは犬同様、玉ねぎは毒だ。
犬のように致死にはいたらないが、やはり過剰摂取では危うい。
一方、セイは化身の姿で寝るときもあるが、おもに睡眠時はローズの屋敷にある部屋…
セイの私室の下にある地底湖で本来の渦ドラゴンとしての姿で眠りにつく。
化身姿では安眠ができないらしい。
そこに氷を張られてしまうと温度が下がり、
いくら龍とはいえ寒くて眠るどころではないというのがセイへのお仕置きだ。
 
 
【もうすぐ屋敷に帰るからもう少しだけ大人しくして待っててよ。
 そしたらお仕置きしないからさ。】
 魔物の中でもトップクラスのドラゴンであるセイと、
魔界でも魔剣士一族にひけを取らない剣豪であるハナモモに、
小さな子と諭すようなく口調で言えるのは、ロードクロサイトはさておき、
ローズくらいなものだろう。
【そうおっしゃるなら…。わかりました。】
【ジキタリス様がそういうのであれば…。】
 しぶしぶと言う様子でおとなしくなる二人にローズは毛布の中で笑った。