薬を飲ませたプリーストはすぐに戻ってくるとチャーリーの隣で石版を覗き込み、
どうしましょうと考える。
「プリーストさんはこの文字…。」
「ごめんなさい。これは古代の文字で…あ!イングリシウ語!!!ちょっと!
 ロードクロサイト!あんたこれ読めるでしょう?これ読んで!」
「…これは人間の中で使われた奴だな…。なんでこんなところでこの文字なんだ?
 おかしいだろうが。」
 私には読めないの、と言うプリーストは思い出したように
ロードクロサイトを引っ張ってくる。
ヒラガーナ、カタガーナは読めないが一応魔界での文字は読めるらしい。
400年も生きているのだから当然と言えば当然ではある。
「知らないわよ。たぶん大昔に作ったので更新し忘れてるんじゃないの?」
「だろうな。え〜〜と…“我は天に仕えし人の子 天への扉 …”
 これ全部読むのか?」
 いやぁ〜な顔をしたロードクロサイトはへばっている部下の頭を軽く叩いた。
だが聞こえたのはわずかな腹の音。
 
「あ〜そういえば町出てから食事とってなかったな…。ちょくちょく私はとっていたが…。」
「え!?!ちゃんとローズさんもご飯食べていたよ!」
 咳をしながら腹の虫を鳴かすローズにロードクロサイトは
そういえばとこれまでの様子を思い出した。
思えば村にいるときは妹たちに捕まり、泉でいじけ…
そこから先は魔力を大量に消費し治癒の力を左腕だけでなく左足にまで分け…
おまけにロードクロサイトには血を吸われ…。
キャシーの言うとおり人間と同じ用に果物やらなにやらは食べている。
だが、ローズの場合吸血鬼である血以外に淫魔のほうの食事も取らなくてはいけない。
 
 
「いやローズは普通の食事以外のものも摂取しないとなんだが…。あっちの方の空腹だな。」
「プリースト先生、淫魔の食事ってことは…。」
 ローズが淫魔であることを知っているネティベルがプリーストを見れば
プリーストも同様に困った顔になった。
「あ、大丈夫よネティベル。ローズは。そっちじゃないから。」
 ん〜と考えるプリーストの言葉にネティベルだけでなく、
ジュリアンやジミーまで引く。エリーだけはだろうな、と動じていない。
 
「っけほ。大丈夫…。ロードクロサイト様…
 ちょっと吸わせてくださいなんとかそれで持ちますから…。」
「そうしたほうがいいな。扉を開けてからでも大丈夫か?」
 ようやく会話に出てきたローズは目を隠すように言うとロードクロサイトの言葉に地面に降りる。
「これは読まなくてもいいんです。プリースト…一緒にいたのに何で覚えてないのさ…けほ。」
「だっていろんなことたくさんあったから忘れちゃったよ!でもローズ、読んでたよね?」
 石版はいいの、と扉に向かうローズにプリーストは首をかしげ、
遠い意過去になってしまった記憶を探るがやはり思い出せない。
「これは単純に…試練の扉よ!魔を倒すがために集まりし、
 志を共にする我らに相応しき力があるか我らに試練を与えよ!」
 声高に門へと告げれば凍りついていた扉が開き、光が一行を包み込む。
一応非戦闘員である二人はプリーストと共に光に包まれ、
気絶した一行を休みながら見ることとなった。
 
 
「今何が起きているんだ?」
「自分が一番恐れている敵と戦っているんです。今まであった一番強いと思う敵とです。」
 ロードクロサイトの腕から血を吸うローズは牙を刺したまま器用に答えると止血し、
プリーストの薬を飲む。
今度は睡眠薬が入っていない薬で眠くはならないが味はさらに悪くなっている。
「なるほど…。ローズは…前の四天王長のカウワディスだったのか?背中の傷あることだし…。」
 小さい頃遭遇し、事実上自分の次に強いとされていたカウワディスか?
というロードクロサイトにローズは首を振った。
「でもローズは私たちと違って海の化け物の…
 えぇっと名前忘れちゃったけどあいつじゃないんでしょ?」
 プリースト、ファイタ−、アーチャーの3人は同じ敵だった為か
3人まとめて戦ったがシャーマンとローズはいなかったのを思い出し、
毛布に包まった塊に問う。
「僕はロードクロサイト様ですよ。
 ロードクロサイト様の10分の一程度の力だったけどきつかったなぁ…。」
「戦ったことないだろうが。何でだ?」
 ローズの言葉に驚く二人…特にロードクロサイトは眉を寄せる。
「あぁ、実を言えば僕ははじめてあった時にこれは四天王級だろうなって予想立てていたんです。
 で、いろいろ会うたびに考えてたらたぶん魔王だろうなって。
 結構早い段階から知ってたんですよ。」
 さすがに入って早々無視されるとは思っていなかったと笑う。
「棘ね。そういえば手に刺さった棘に夢中でぜんぜん気がつかなかったんだっけ?」
「あ〜〜。あれな。よく行動していたせいかぜんぜん気配に気がつかなくて無視した奴か。
 懐かしいな。どうりで動揺しなかったわけだ。」
 ジミーが早くも起き上がると、まったくずれていない帽子を被ったまま頭を振った。
ようやく辺りを見回す余裕ができたのかのんびり話している3人に眼を留め、
全員が目を覚ますまでウクレレを静かに引く。
少し腹も膨れ、ややご機嫌な様子のローズはもう話すこともないだろうと寝り、
ジミーの物悲しげなウクレレをバックに、
ロードクロサイトとプリーストも一行が目を覚ますのをまった。