目の前に広がる光景に思わず息を呑むと感嘆のため息をつく。
敵地ともいえるフジベレストだがロードクロサイトもすごいな、と目を見張った。
一面を青と白の花が咲き誇り、静かな風に軽く揺れる。
何よりも周囲は雲海に囲まれ、さざ波のように岩肌に雲があたっては砕け、
その白い雲をほんの一時だけ当たりに散らす。
晴天のはずが太陽はなく、影のない光がどこからともなく周囲から降り注ぐ。
一段高い場所には月を模った水晶と同じく星を模ったものがきらきらと輝いている。
あまりにも静かな空間で登ってきた道が雲に覆い隠された。
「ここが…頂上…。」
「すごくキレイな…なんていえばいいのかしら。これが俗に言う天国と言うのなの?」
「実家で見たもの事のあるもののどれにも勝る光景だな…。
さすがにこの世界のものでない場所に最も近い…。」
思わず見とれる一行は飛び石のようにしかれた岩を足場に水晶の前まで進み出た。
「あ、そうだローズ、声大丈夫?」
ここから先に進むためにローズの命の声が必要だが、プリーストのといに無理と首を振る。
「別の方法でよければ開けるけど…。」
「本当!?やっぱり私は人前で歌えないから…お願い!」
眼に見えて落ち込む幼馴染にローズも自己責任でなったせいか居心地が悪い。
【ロードクロサイト様、“あれ”出してもいいですか?本来なら毟り取りたいですが…。】
【あぁ、“あれ”か。今馬は…そういえば魔力が足りないんだったな。
プリーストのあれをきくよりはマシだ。許可する。】
ローズが一番自分の中で嫌っているものを使わなければいけない、
という嘆きにロードクロサイトは仕方がないと許可を出すとローズを地面に下ろした。
ローズに張ってもらっている光を無効化する結界が、
さらに強固なものに変化するや否や水晶の前に立ち尽くすローズに異変が現れる。
まばゆい光を放ちながら現れたのは、白い光の翼だった。
ローズの背中の左から生える隻翼は鳥の翼ともプリーストの翼とも違い、
簡略化した壁画のように抽象的でいくつかの光の塊がわずかな隙間を作りそれを模っている。
さらに光を強めればチャーリーの天の正虎を直したときのように金色の髪へと変化し、
地面につくほど長くなる。
服までもが白い布のようなものへと変わると、
怪我をしているはずが今は傷ひとつない左腕を天に向け、静かに両手で何かを握った。
体からあふれる光がその拳に集まると透明な水晶の杖が現れ、
ローズはそれを軽く足もので打ち鳴らす。
教会の鐘のような音がなり響き、月と星の水晶から蔦が伸びると絡み合い、
水晶のアーチを模った。
アーチの向こう側が白くゆがむとあたりを包み込んでいた光が消え去り、
ローズはもとの姿で疲れたとばかりに伸びをしている。
「終わり。」
「これって…なんかものすっごく特殊な方法だと思うんだけど…。あ、そっか。
そういえばローズは天族に近いからこの方法が使えるんだ。」
近くの石に腰を下ろすローズはプリーストの言葉に嬉しくないよ、
と軽くにらみつけた。
「すっごぉぉい!ローくんってかみさまみたい〜。」
「それであの剣も直したのね…。本当に手ごわそ…いえ、手ごわいのね。」
「し…先生!これは呪文ですか!?姿を変えるなんて…すごいですよ!」
すごいと連発するアイアンに適当に相槌をうち、
難しい表情のネティベルと興奮ぎみのポリッターを見比べる。
やっと体の中にある光の水晶が落ち着くとロードクロサイトのほうへと歩み寄った。
「もいでいなくて正解だったな。あぁいうこともできるのか…。」
「正直疲れるのであまり使いたくはないんですけどね。
また見苦しいものをお見せして…申し訳ございません。」
頭をたれるローズにロードクロサイトは別にいいと頭を上げさせる。
彼にとっては面白いものを見たという気分だったりするが、
ローズトしては見せたくない醜態をさらしたとばかりに大きく息を吐いた。
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