30分後
散々急降下と急上昇、宙返りやらアクロバティックな飛行をされたローズは、
シィルーズの姿でぐったりと抱えられていた。
【気持ち悪い…。】
しがみつくどころでないローズ…シィルーズは、
仰向けに飛ぶロードクロサイトに抱えられ、顔を青くし力なく呟く。
【あれぐらい普通だろう。やっぱり風景がない時は同行者が大事だな。】
【もともと男だってこと忘れないでください…。】
見た目が大事だ、と言い切るロードクロサイトにシィルーズは言い返す気力もない。
よじ登り、ロードクロサイトの首にすがるとぼんやり明るくなってきた曇り空に眼を向けた。
【そういえば疲れないんですか?】
【飛ぶのか?ぜんぜん。大体風に乗っているだけだからな…。
軽いんで負担にもならないからな。】
どれくらい飛んでいるのかよくわからないシィルーズだが、
ロードクロサイトの返事に片頬が引きあがる。
【今どの辺りなんですか?】
怖くて周辺が見えないローズは雲の流れに目を向け問う。
何も考えずによじ登ったおかげでロードクロサイトが近くなったことに
いまさらながら気がつき、顔を仰ぎ見ることもできない。
【そうだな…。もうすぐ北にワイハ島が見えてくるはずだ。…眠いなら寝てていいぞ?】
辺りに目を向けたロードクロサイトはシィルーズを抱えたままくるりと半回転した。
驚いてしがみ付くシィルーズに笑うと小さくあくびをかみ殺すのに気がつく。
【すみません…飛んでいるのは僕じゃないんですが…疲れちゃって…。
このまま寝ますので城が見えたら起こしてください…。
と、落とさないでくださいね。】
うとうととし始め、怪我のない右腕でしがみ付くと早くも寝息が聞こえてきた。
【魔物になっても相変わらずだな…。】
腕の力が緩んでいるのに気がつき、抱えなおすとしばし思い出す。
魔物を倒し、疲れた様子で座り込む見慣れた銀髪によく会うなぁ、
とロードクロサイトは声をかけた。
「何しているんだ?」
「ん?あぁ、あんたか…。今疲れてんだから血を吸うとか無駄な体力取らせないでよね。
あぁなんんでこうも魔物がおおいんだよ。」
振り向いた顔は疲れた様子で襲い掛かってくる魔物を切り捨て、
眠たげにあくびをかみ殺した。
「随分眠そうだな。」
「ちょっと夜寝てないんで。なにしてんの?」
剣をしまい、すぐ間近にやってきたロードクロサイトを睨む。
血を飲もうとしていたロードクロサイトはいいだろうが、と言う。
「よくないから。ほんと。まぁ吸うんだったら宿まで運んでよ。」
「あ〜…面倒だな…。でもまぁちびだから重くはないか。」
反論する前に噛み付き、血を吸うとがくりと体を傾け、
ロードクロサイトにもたれかかる。
「首に手を回してしがみ付いてろ。」
「ちびとかマジむかつく…。」
ぐったりしたまま背負われ、ちびと言われたことに髪を引っ張った。
痛がったところで手を離すと、しっかりと両手を前に回ししがみ付く。
「宿はどこだ?」
「えぇっと大通りからすこしはなれたところ。
看板が大きいからすぐわかるよ。で、3階の右奥。」
そういえば闇の水晶を取り込んでから久しぶりだな、
と一行に会うのかと思い深々とため息を吐いた。
「なんかつけてる?ハーブっぽい匂いがすんだけど。」
「男に言われても気持ち悪いんだが…。まぁ多少はつけているな。
こっちに生えているもんじゃないんで説明しにくいが…。」
町に入り、夜道を歩くとローズの言葉に嫌そうな顔をする。
再び眠たげなあくびが聞こえ、しがみ付いている力が弱まり、
ロードクロサイトはまさかと思う。
「ふ〜ん…なんか…。あんたの歩調…眠い…。」
「は?おい?寝たのか…。あの連中に会うのは正直勘弁なんだが…。」
すぐに寝息へと変わるとロードクロサイトはやれやれとばかりにため息を再び吐いた。
案外すぐに宿屋は見つかると3階へと上がり、気配のする戸を開ける。
「な!?なんであんたがいんだ?」
「ローズ知らない?って…それ寝てるの?」
ちょうど出かけるところだったのか、
鉢合わせたソーズマンとプリーストは熟睡しているローズに驚いた表情となった。
「さすがに下ろしたいんだが…入っても大丈夫か?この手がぜんぜん離れない。」
返事を聞く前に中に入り、寝台に下ろすとつかんだ手から髪を取り戻し、
戸惑った様子の一行に首をかしげる。
「どうかしたのか?」
「いっいや…。ローズ…俺とかプリーストとかの傍じゃないと熟睡できなかったから…。
なんであんたで熟睡できたのかなって…。」
「村でもローズのお父さんとか家族の傍じゃないと熟睡できないぐらい、
人に敏感だからなんで?っておもって。」
「ましてや魔界の住人の背中でねぇ…。髪まで握って…。」
くったりと眠るローズとロードクロサイトを見比べる一行は、
戸惑ったように顔を見合わせた。
「疲れていたんだろう?それより用事があるんだ。帰るぞ。」
「誰か血を吸うって言うんなら…って言いたいところだけど、
ローズの血をすった後ならそうじゃないそうだな。」
やれやれと窓辺に行くロードクロサイトは窓から身を乗り出す。
「ちょっ…そこで入り口じゃ…。」
ファイターの声にん?と振り向く。
「ここから飛んだほうが早いんだ。ではな。」
蝙蝠に変化し、明け方の夜空を飛んでいった。
ふと、背負わずに蝙蝠にして抱えてもっていけばよかったな、と小さくため息をつく。
思い出したところで歩調で眠いと言う言葉に、あれも変わっていなかったのかと、
変化のない元宿敵にどうなんだろうな、
と完全に力の抜けたローズ…シィルーズを抱えなおした。
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