ようやく大陸が見えたのは曇り空がさらに暗く、夕暮れに差し掛かった頃。
起きてすぐにローズに戻るとしっかりとロードクロサイトにしがみ付いた。
【ローズ、見えてきたの確認しないのか?】
【ロードクロサイト様を信じてるので見ません!すっごい嫌な予感がするので…。】
 促しても首を振るローズにロードクロサイトは、
何かいたずらを思いついたように目を輝かせる。
そうとは気がつかないローズだが、あ、という声に反射的に顔を上げた。
【あれはなんだ?】
【あれ?あれって…】
【あれだあれ。】
 要領を得ないロードクロサイトの言葉にローズは首をかしげ、
大陸が見える方向を見る。
【とくに変わったところは…。うわぁっぁぁああぁああああ!!!!】
 何か見るだろうかと目を凝らすローズだが、急に視点が海岸に向き、
急降下され思わず叫ぶ。
すぐに上昇するロードクロサイトだが、単純だなと笑った。
 
【ほんっと最悪!!!人で遊ばないでくださいよ!!】
【本当に単純だなぁ。】
 天然あほの子に単純といわれたくない、とローズは涙目になった目でにらみつけた。
【純粋って言ってくれたほうがまだマシなんですが。】
 驚いて左腕がさらに痛くなった、
とため息をつくローズにひとしきり笑ったロードクロサイトは、
遠くに見える大きな滝を見つけた。
 
 
【わかったわかった。次の下降で城に入るからな。
 そういえば…前に言っていた添い寝だったか?
 忘れる前でなければそのうち忘れるぞ?】
 そういえば、というロードクロサイトの言葉にローズは顔を耳まで赤くする。
【そういえば…そうお願いしましたね…。
 えぇっとロードクロサイト様も疲れていると思うので…後日で…。】
 自分で言い出しておきながら、わたわたと慌てるローズははたと、
あることに気がつき、思考が停止する。
【わかった。で…降りるぞ。】
 思考停止しているローズに首をかしげるロードクロサイトは、
見えてきた城にローズを揺すってみる。
【どうかしたか?】
【いえ…今の今まで最初のときの恐怖がでかすぎて頭から飛んでいたのですが…。
 ロードクロサイト様にしがみ付いていたんでした…。うわぁああ!!】
 一生の不覚とばかりに呟くローズに思わずロードクロサイトは落としかけた。
再び叫ぶローズは慌ててしがみ付くとぺたりと耳をたれ、
ロードクロサイトにも伝わるぐらい激しく鼓動を鳴らす。
【そんなに驚いたのか?ありえないぐらいあほなことを聞いて落としかけたが…】
【そりゃ驚きますよ!!あ〜〜怖かった…。】
 再び何にしがみ付いているか忘れたように、すがりつくローズは深々とため息をついた。
 
 
【トータスシェル、部屋の窓を開けといてくれ。】
【かしこまりました。魔王様、若干霧にょようにゃ雨が降っておりますにょで、
 湯浴みにょ準備もしてお待ちしております。】
 ロードクロサイトは城にいる猫又、三毛猫のトータスシェルに、
部屋の窓を開けておくよう念話で伝える。
そうか、と頷くロードクロサイトは未だしがみ付いているローズを見下ろした。
【降りるぞ?】
【えぇっ!?あ、はい!しがみ付いているので…
 無茶苦茶な降り方はしないでくださいよね?】
 しがみ付くローズを確認すると城へ向かって羽ばたき、降下していく。