魔王城

 

 部屋へと戻ったロードクロサイトが羽をしまうと同時に付き猫が部屋へと入ってきた。
「魔王様、お疲れ様です。湯浴みにょ準備はできておりまにゃ。」
 久しぶりな念話でない、イングリシウ語に帰ってきたなぁ、
としみじみ思うロードクロサイトは呆れたようなフローラに気がつき、久しぶりと挨拶する。
「まぁお疲れ様。それで…気絶しているように見えるんですがどうしました?」
「あぁ、降りる途中ちょっといたずらしたらな。」
 ふにゃ、と目を回しているローズをどうしたものかとフローラは大きく息を吐いた。
だが、その悩みもすぐに背後から聞こえる馬の蹄の音で解消される。
「ジキタリス様!また治療が必要な箇所が増えて…魔王様!
 その方をこちらにお願いします!
 今日と言う今日こそは治療が終わるまで治癒の間から出しませんからね!!」
「足まで捻挫してる〜〜〜!!!!ジキタリス様もう!!!
 セイ様に金縛りでもかけてもらいましょう!」
 ケアロスの背から顔を出す青い羽の鳥人、カラドリウス一族のケールラが顔を出し、
ローズを受け取るとそのまま脱兎のごとく走り去っていく。
 
 
 強制的に連れて行かれたローズはさておき、
雨で冷えた身体を温めたロードクロサイトは、道中走ってきたキスケをそのまま腕に乗せる。
「久しぶりだな。元気にしていたか?」
「ちゅっちゅちゅう!ちちゅ…ちゅちっちゅっちゅっちっちゅち?」
 相変わらず獣の言葉ではあるが、何を言いたいのかはロードクロサイトに伝わり、
キスケに笑いかけた。
「ローズなら今治癒の間で腕と足の治療中だ。あぁ、そうだ。
 ローズの妹の…ユーチャリスだったか?にも会って来たぞ。」
 肩に乗せたまま歩くロードクロサイトの言葉にキスケは毛づくろいの手を止めた。
「あと…ソーズマンやらシャーマンやら…
 あぁそれとプリーストが天界人にジョブチェンジしていたな。」
「ちちゅっちゅ!?」
 プリーストのところで驚くキスケは思わず地面に降りるとグレムリンの姿になる。
表情が見やすくなり、驚いているキスケに若返っていた、
と伝えると大きな眼をさらに見開いた。
 
「そうだ。フローラにはつい先ほど伝えたが、そろそろ勇者一行が城に向かってくる。
 ドルイドンに海の警備を強めるよう伝えておいてくれ。」
「ちゅっちゅ。」
 頷くキスケはハムスターに戻るとキスケ専用ともいえる細い通気口へと姿を消す。
 
 
 そろそろ放置していた武器の手入れでもするか、
と自室に向かうロードクロサイトは大勢の叫び声を聞き、
どうしたと眉をひそめると一軍が集まる間へと足を向けた。
「なんだ騒がしい。あぁ、それか。」
 慌てているローズはロードクロサイトに気がついていないが、困ったなぁ、
とバンダナに手を当てた。
騒ぎを鎮めるはずのセイやハナモモまでもが、
ローズの長い髪がなくなったことに驚きを隠せていない。
「だから勇者がうんぬんかんぬんじゃなくて、僕個人の都合と言うかえぇっと…。
 どうせまたすぐ伸びるから…。」
 一番隊から五番隊までいるうち、一,二番隊と隊長らしか入れていないというのに、
ほとんどが目の前の光景が信じられないように首を振っている。
しか、といっても到底数えたくなるような人数ではないが。
「ジキタリス様の…ジキタリス様の御髪が…。」
「あの生糸のように長い髪が…。」
「あの滑らかで触り心地のよいあの御髪が…。」
 一気に落ち込んでいく面々にローズは深々とため息をつくととにかく、
と石段にヒールを打ち付け、静まらせた。
「勇者一行がもうすぐこちらに来る。念話で伝えたとおり、各自指示に従うように。
 一番隊の上位者と四・五番隊以外解散。」
 一瞬にして気持ちを切り替えた一軍は御意、と言うとローズに言われたもの以外が一斉に消え、
ローズは残った面々の元へと歩み寄っていく。
 
 
「魔王様、先日は勝手に押しかけ、申し訳ございませんでした。」
 先に出ていたロードクロサイトに、セイとハナモモは結界が張られた間からでてくるなり慌てて膝を折る。
跪き、挨拶をするとハナモモは一足先にローズの屋敷へと帰り、セイだけが残った。
「まったく。まぁおかげでローズの回復が早まり、全属性の龍を葬ったが…。」
「全属性?たしか…魔の神から直接作られた龍だったかと。まだ生きていたのですね。
 てっきり寿命で死んだかと…。それで左腕を損傷されたんですか。
 魔法関連では本当にジキタリス様はお強いのですね…。
 自分の身体の限界以上の魔法と言うのも問題ですが。」
 普段からしっかりしてくれればいいのに、と呟くセイは用事を思い出しました、
とロードクロサイトとは別の道に向かう。
ひとまずあちらこちらいくか、と気の向くままにロードクロサイトはそのまま自室でなくぶらぶらと気の向くままに歩いた。