ふと、廊下を横切る姿を見つけ、珍しいな、とあとをつける。
「ユルング、珍しくアナンタとイルヤンに分かれていないんだな。」
ロードクロサイトに声をかけられ、ん?と低い声で振り向いたのは三つ首の龍、
ヒュドラ一族の男、ヒュドラ==ケツァルカトル=ユルング。
一族の特徴として普段はアナンタという青い髪を逆立て、額に赤い宝玉が埋め込まれた少年と、
イルヤンという黄色いセミロングの髪をし、額に蒼い宝玉を埋め込まれた未だ性別が確定していない子供の2人の姿に分かれている。
今はその2人が融合した本体とも言われる3人目の人格、ユルングというこめかみと襟足だけ伸ばした緑色の髪に、額に紫の宝玉が埋め込まれた長身の男の姿となっていた。
「あら、魔王様。久し振りネ。あたいも出る予定なので肩慣らしをしていたのヨ。」
間違いなく男ではあるのだが、露出度の高い服に身を包み、
肩には薄いショールを巻いた服だけ見れば踊り子や、遊女あたりにみえなくもないが、
問題はその図体と声だ。
口調はまぁタマモより現代的な口調ではあるが女性口調。
だが、声はやや高めにしてはあるものの低めの声で時々ドスの利いた完全な男声。
そして極め付きは長身細身のロードクロサイトよりも背が高い。
ローズがいつも肩ほどにいるのに対し、今度はロードクロサイトが肩ほどしかない。
「なるほど。イルヤンとアナンタは…まぁユルングが元気そうなら元気か。
あまり武器を使っているところを見ないが・・・。」
「そうヨ。だってあんな野蛮なものあたいに似合わないでショ?
だ、か、ら。あたいはこの羽衣で幻術をかけてあげるだけヨ。
あたい、武術系にがてなの。」
これこれ、と肩にかけているショールを振る姿にロードクロサイトは微妙な組み合わせだな、
と内心呟く。
「そういえばいつも傍にいるあの小動物…ジキタリスさんがいないけど…食事中かしら?」
「あぁ、今は念話も通じないが…。
武術系が苦手なら以前の素手で鋼鉄の籠手を破壊したという話…。」
からかって遊びたかったのに、
と残念そうなユルングにロードクロサイトは以前ユルングが破壊した物を思い出す。
「あら、やだ。誰に聞いたのかしら?
あれはジキタリスさんが失礼なことをいうからもめただけヨ。
あの時は面白かったわ〜。むりやり…んふ。いけないいけない。
こんな野暮なこと話すもんじゃないわネ。」
現在ローズが使っている籠手は鋼鉄よりも硬い金属だが、
不敵な笑みを見せるユルングにロードクロサイトはいじめるのもほどほどにしてやれよ、
と旅の道中2回泣いたことは伏せて忠告した。
「わかってるわヨ。さぁって…もう。そんな時間なの?アナンタ…。
わかったわヨ。好きにしなさい。」
「言われなくてもイルヤン、わかれっぞ!」
「イイヨ。」
光に包まれ、長身が縮むとそこには少年の姿が2人あった。
「いよっ!魔王様。ひっさしっぶりー。」
「マオウサマ、ヒサシブリ。ゆるんぐガメイワクカケマシタ。」
青い髪のアナンタが元気のいい声で挨拶すると黄色い髪のイルヤンが片言で挨拶する。
「ユルングの馬鹿がいっつもわりぃな。
んじゃあ今度ジキタリスのにーちゃんにはまた謝っとくから。」
「あなんた、じきたりすサマヨリトシウエ…。オニイチャンオカシイトオモウヨ。」
細かいこと気にしない、と笑うと部屋戻ろう、と2人揃って駆け出していく。
「あの3人は…。いつ会っても騒がしいな…。」
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