嵐が過ぎ去ったような廊下に今度はあの駄目雑巾…
ウェハースの弟スォルドがロードクロサイトの名を呼びながらやってくる。
「お久し振りです。魔王様。キルから聞きましたが…あの馬鹿もくるんでしょうか?
そうなると一軍を押さえるのが辛くなってくるのですが…。」
「ウェハースか…。くる…だろうな。
一応入ってくるのは人間界にある城だから魔界の領域じゃない。
押さえていなくともあれに関しては全面的に攻撃しても、
戦力になんら変わりはないだろう。」
黒いバンダナから結わいた襟足が覗く厳格な顔立ちの魔剣士、スォルドはまったく、と呟く。
一軍のもっとも強く、魔王を守る1番隊を率いるスォルドは、
一族の中でも先日現役を退いた叔父の弟、ストロンガスについで現在一族最強となっている。
最弱の兄とは正反対ではあるスォルドは腰に自分の魔剣を差し、
鋭い眼光をそのままにロードクロサイトを見る。
「魔王様。警備などどうしましょう?
親衛隊が出ても死なないほどの実力がありますでしょうか?」
「あ〜〜うん。うん…。無理だな。2番隊がせいぜいだろうな…。」
そもそもローズは軍を出すつもりないだろう、
と先ほどの会合を言えば確認です、と答えた。
「それと…キルは…ノーブリー様はどこに?」
「キルなら先に帰ってきているはずだがそういえばあっていないな…。」
甥であるキルを探すスォルドはどこにいったんだろうかと、考え込む。
「念話で呼んだほうが早いだろう・・・。少し待て。」
「申し訳ございません。」
基本的に魔王、四天王、副将、隊長の間ならば互いに会話ができるのだが、
それ以下のものが自分から繋げることはできない。
スォルドも隊長ではあるが、あまり得意ではないのだ。
【キル、スォルドが探していたが…今どこにいる?】
【魔王様。お帰りなさい。ちょうど僕も叔父に用事があったので…
傍にいますか?今向かいます。】
すぐに返答が帰ってきたキルの言うとおりにその場で待っていると、
松明の炎が次々と蒼い鬼火に代わり、一番近い松明の炎があふれ、
ロードクロサイトの前で人の姿となる。
「申し訳ありません。少し実家のほうにいましたもので。
叔父さん、お待たせしました。」
「そこから鬼火できたのか?かなり距離があるだろうが…。」
一応キルの屋敷の部屋から鬼一族の集落まで一気にいけるにはいけるが、
それでも屋敷から城までは距離がある。
便利だな、と感心するロードクロサイトの隣でスォルドは鋭い眼光を和ませ、
キルの髪を撫でる。
「先日、魔剣について連絡があった。ノーブリー様の剣についての話だそうで。」
「ちょうどよかった。昨日、ヌリカ国内の人間がいる集落で好き勝手していた
ゴーレムを刺したら折れてしまって直していただこうと思っていました。」
普通の短剣だったので、と苦笑するとスォルドとともに失礼しますと行ってしまう。
普段からこう騒がしい城内だったか?と首をかしげると中庭へと出た。
付き猫らが世話しているため、きれいに整っている庭はこっそりローズが
歌の力を使って花を咲かせているが、ロードクロサイトは気がついていない。
らしい。
暇だなぁ、と座るロードクロサイトは雨のやんだ空を見上げた。
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