「あぁ、そうだ。明日、久々にデスサイズの手入れをする予定だからついでに、
ローズのエクスカリバーも手入れするか?」
「あ、材料貸していただけるんであれば助かります。
正虎を修復した際に傷が付いてしまって自己修復の粗をとりたかったところです。」
大魔鎌の手入れをするというロードクロサイトの言葉に、
ローズは腰に下げていたエクスカリバーに手を置き、頷いた。
彼らの持つ武器がそもそも希少かつ、
最高硬度を誇るオリハルコンのため手入れにはそれ相応の特殊な道具が必要になる。
ローズも持っているには持っているが、ロードクロサイトの持つものほど質はよくない。
旅の途中は教会や各地でわずかに湧き出ている神水と呼ばれる水で
最良の状態にしていたが、今では拒絶されてしまいその手入れ方法は使えなくなっている。
「デスサイズはその剣で付けられたヒビが未だに治っていないんだがな。」
右手にはめられた指輪を見るロードクロサイトは、
大魔鎌が変化した収納状態のそれをちらりと見るとローズに視線を戻す。
指輪の装飾部の先端に一筋ヒビが入り、赤く光る宝玉が修復中であることを示す。
「一応退魔の剣ですからそう簡単に治ってもらっては、銀月の名に恥じます。
僕で無く、人間たちが大好きな人形の名に。」
何かを思い出したのか、突然ローズを覆う気配が黒く歪み、狂気に哂う。
「そうやたらと狂気を出すな。あぁ、そうだ。
シャムリンに一人分夕餉を増やせと言っておいてくれ。
帰って早々にトータスシェルのフルコースは重い。」
「すみません…どうにもすぐ落ちやすくて…。いいですが…。軽いですか?
シャムリンの作る料理…。」
う〜〜ん、とうなるローズからは黒い気配が四散し、普段の様子に戻る。
そこへ顔と尻尾の先が黒いシャム猫が木陰から姿を現した。
二股の尻尾を揺らすシャム猫はローズの肩へと飛び乗る。
「了解しました。魔王様ニョ大好きニャハンバーグ、おつくりしますね。」
「あぁ、わかった。頼んだ。」
ローズの肩に乗ったシャムリンは話を聞いていたのか、いいですよと答える。
「…ん?ハンバーグって軽い?重いと思うんだけど…。あれ…?
魔王様肉食だし…おからとか豆腐じゃないから…。十分重いよねぇ…ん?」
ロードクロサイトも承諾しているメニューにローズはん?と首をかしげる。
「細かいことは気にするな。白髪になるぞ。」
「銀髪に多少白が混じったところでまったく見えませんよ。
魔王様は絶対白髪生えなさそうですが…。」
どういう意味だ?と眉を上げるロードクロサイトは、
慌てて逃げようとするローズの首根っこを捕まえた。
シャムリンはそっと飛び降りると、
目をそらし苦笑いのローズに手刀が振り下ろされる音と悲鳴に背を向け、
2本の尻尾を上品に立てながらその場を立ち去る。
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