久しぶりにのんびりと屋敷で休んだローズはエクスカリバーを片手に城へと入る。
勇者が来る正門側からは四天王の4部屋を通り抜け、
決戦の場である部屋を抜け…と奥にいかなくては入れないが、
四天王の屋敷側からは裏口ひとつで居住区に入る構造だ。
もっとも、魔界側からすればこっちが正門という扱いになるため、
勇者が入る正門よりもはるかに豪華かつ堅牢に作られてはいる。
「あ、セイ。昨日も言ったとおりセイにはドルイドンのいる海に行って、
 あっちの岸辺で見張っていて。攻撃は…威嚇程度なら死なないと思う。」
 城の居住区に入ってすぐ目に付く噴水にいるセイを見つけると、ローズは声をかけた。
「えぇ。今水鏡で見ていましたが…まだ天界ですね。
 あっちの大陸は最近雨が降るようであちらこちらから監視してますが、
 今のところはいないです。」
 水から手を離したセイはいけないいけない、と水の中から鉄扇を取り出した。
彼女の武器ではあるが、攻撃ではなく水の力を強めるそれは、
氷のように向こう側をうっすらと透けさせている。
「やっぱり時間の流れが違うからねぇ…。あぁ、そうだ。
 シャムリンに朝食はいらないって伝えておいて。
 魔王様のところで研磨するついでに飲みに誘われそうだから。」
 手入れが簡単でいいなぁ、と腰に下げた剣をみるローズはそれじゃあ、
とロードクロサイトの部屋へと向かった。
 
 
 
「入ります…よ…。って…。どうしたんですか?この…散らかり方は。」
「ローズ、この棚押さえていてくれ。両手が塞がっている。」
 城の中腹にある大きな扉をノックし、
開けたローズは目の前の惨状に部屋を間違えたかと本気で思う。
だが、奥のほうから聞こえるロードクロサイトの声に間違いないのか、
と軽く頭痛を覚えた。
「左手がまだ使えないのでたいした力にはなれませんが…。
 またトータスシェルに内緒でこんなところにワインを隠して…。
 彼女も魔王様の身体を気遣っての忠告なのですからちゃんと…あぁ!
 そこ動かしたら!!!」
 ロードクロサイトの無いようで実は結構ある衣類の波にローズだけが飲み込まれる。
あぁ、と振り向いたロードクロサイトはとりあえず手持ちを減らそうと、
その場を離れ、出しておいたグラスと研磨用の金剛龍の鱗や、
オリハルコンの粒やらを準備しはじめた。
埋もれているローズといえば身動きが取れないはもちろん、
ロードクロサイトの服ということで苦しいよりも嬉しいほうが勝っている状態だ。
一通り準備を終えたロードクロサイトは適当に服を掴むと棚に放り投げ、
息苦しさで失神しかけていたローズを起こした。
 
 
 片手で聖剣を研磨するローズの隣でロードクロサイトは、
コレクションの武器の手入れをしていた。
「ローズ、あんまり丹念にやると瞬殺になるから気をつけてくれよ。」
「わかってますけど、最近ろくな手入れができていなかったので…これでよし、と。」
 手に持っていた聖水を厚手の布にしみこませ、エクスカリバーを拭うと鞘へと収める。
「聖剣の手入れは厄介だな。」
 聖水のしみこんだ布を一瞬で燃やすローズは振り向き、いやそうな視線を向けた。
「そうですか?僕的には…デスサイズの手入れの最後に血を塗るのがどうも…。」
「材料に含まれているからな。ローズ。」
 剣を置くローズを手招きすると首をかしげるローズの血を吸う。
ついでにローズに手の止血をさせる。
「いきなり…吸うの本当にやめてくださいよ…。」
 軽い貧血で椅子に座るローズは片づけを終え、
戻ってきたロードクロサイトを睨みながら言う。
とりあえず、とワインの準備をするロードクロサイトはローズの分をテーブルに置いた。
「とりあえず貧血なら飲んどけ。」
「昔ワインは神の血だといわれていましたが…
 いくら色が似ているからって絶対違うと思うんですが。
 そもそも…魔王様ほど僕強くないですよ?一杯だけいただきます…。」
 目を閉じ、力をこめるローズを内側から光があふれ、吸い込まれていく。
幾分顔色の戻ったローズはロードクロサイトの用意したワインを手に取った。
「そういえば昨日淫魔の食事を取ったといっていたな。その力の残りか?」
「腕の回復分に蓄えていた分ですよ。さっき魔王様から魔力と血をいただきましたが…
 またあとで血の気の多いのとかから両方の食事を取って怪我の回復に努めますよ…。」
 ロードクロサイトの言葉に一瞬目を泳がせたローズはすぐのそう返答する。
結局、ロードクロサイトに付き合わされ、ローズは完全につぶされることとなった。