ロードクロサイトにつぶされたローズは全身を襲うだるさに眉をしかめ、
ぼんやりと目を覚ます。
だがどういうわけか体が鉛のように重い…というよりも何かが乗っかり重い。
ついでに二日酔いで頭が痛い。
あたりは暗く、本来の活動時間である夜であることが判る。
ローズの目では何も見えないが誰かが乗っかっているらしい、
と気がつくとローズは一気に目を覚まし体の自由が利かないことに焦る。
耳元で寝息が聞こえるため誰がと言うのは容易に分かることではあるが、
状況が状況なだけに顔を赤くし思考が空回りする。
背も図体も断然自分よりでかいロードクロサイトが覆いかぶさってしまって、
身動きがまったく取れない。
耳元で自分の鼓動が聞こえ、声をかけるべきかそれともう二度と来ないであろう、
この機会をもう少し堪能すべきか。
だがこのままではつぶれなくともどこかしびれて動けなくなってしまう。
と言ううよりも潰されていない腕以外が痺れて動けない。
本人曰く断腸の想いでロードクロサイトを揺り動かす。
嬉しいには嬉しいが、内臓がそろそろ潰れる。
「魔王様、重いんですが…。」
どうやらつぶされた…酔い潰したローズを屋敷に送る、
もしくは別室に移すのが面倒だったようだ。
2・3ハプニングに見舞われながらようやくロードクロサイトが目を覚まし、
苦労したローズは解放されたと同時に自分の屋敷に走り去って行った。
「そういえば…昨日ローズを潰したんだったな…。
あの3人には会わないよう気をつけたほうがいいな。」
あ〜〜というロードクロサイトはもそもそと起きると、
決戦の間と呼ばれる巨大な部屋へと移動する。
一応玉座のようにすえられた椅子から監視用の蝙蝠を四天王が戦う間へと放った。
そこへ蹄の音が聞こえ、振り向くとケアロスがやってきたところであった。
「魔王様、回復の泉…どれほど必要ですか?」
「あぁ、そういえば勇者が来るのに各入り口に用意するんだったな。
10人ほどいるんで少し人数が多い。多めに用意してやってくれ。」
ラストダンジョンではたまにある、ボス直前回復用の回復の泉にどれほど用意するのかと、
そう問うケアロスにいつもどおり適当でいいと返す。
戻る道中に、吹き抜けの離れた廊下を歩く姿を見つけ、
ケアロスに別れを告げると払ったマントから無数の蝙蝠を呼び出し、
蝙蝠の塊となって飛んでいく。
ケアロスからは消え去っていく後姿しか見えなかったが、
蝙蝠の集団に襲われ、悲鳴を上げる声とやかましい、と叩く音だけが聞こえた。
「魔王様―!ジキタリス様に後で治癒の間に来るよう伝えてくださいーーーー!!!」
「あぁ。わかっている。で、ローズ。腕の調子は…」
「ひねりながら言わないでくださいよ!!今腕以外痺れてるんですから!」
痛い、と言う言葉にケアロスの眉がつりあがる。
3散歩下がるとそのまま一息に吹き抜けの廊下へと飛び移った。
「魔王様、怪我増やさないでください。
ジキタリス様のお怪我はすぐ治らないんですから。」
「あぁ…すまない…。それよりケアロス、脚…どけてやったほうが…。」
「はい?」
石造りの廊下を打ち鳴らし、
目の前に着地したケアロスにさすがのロードクロサイトもひるむ。
だが、脚と言われたケアロスは足元に視線を下ろし、さぁーっと血の気を引かせた。
「ジッジキタリス様!大丈夫ですか!?」
転んだらしいローズは、ロードクロサイトがとっさに掴んだために、
腕をひねり上げられた状態で2人の足元に倒れていた。
それもケアロスが踏み鳴らした地面のすぐ横に顔があるという…。
驚きと恐怖で思わず固まったローズを引き起こし、
ロードクロサイトが頭を叩くとようやく動き始める。
「なんか最近僕いじられてばっかりなきがするんですが…。
腕というと…昨日、魔王様魔力分けていただけたんでしょうか?
大分魔力が回復して…。」
「あぁ、どうやら寝返りで押しつぶしている間に魔力を分け与えたらしい。
そういえば腕が多少動くようになったな。」
あぁ、それで…と納得し掛けたローズは目を覚ました後の騒動を思い出し、
今更ながら慌てたようにじたばたともがき始め、煩いと叩かれ、したたかに頭を打つ。
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