身体の回復具合を見るため、あのままケアロスに連れて行かれたローズはさておき、
蝙蝠に変身するとそのまま飛び立つ。
向かった先は魔界側。2軍の居る建造物の最上階、軍団長であるキルらがいる部屋だ。
「キル様〜!もうこの狐!どうにかしてくだされ!」
「タマモさん…クラマをあんまりいじめないでくださいよ…。」
「クラマはからかいがいがあってのぅ。
それよりキル、魔王様が窓辺におるようじゃが…。」
薄い桜色の着物を着たタマモは魔鳥の羽で作られた羽扇を広げ、
口元を隠すようにすると楽しげに笑う。
嘆くクラマは目の前の肉料理にダウンし、
ロードクロサイトに背を向けて座っていたキルは振り向く。
「どうしてそんなところから…。」
「入るのにトラップを回避しなければならないのが面倒なだけだ。」
「魔王様は全部破壊して入ってきたことがあるからのぅ。
妾としてはこの方がよい気が…。」
「配置を換えたゆえ、この方がいろいろと安全ではないかと。」
呆れるキルに廊下の罠、とロードクロサイトは言う。
2軍といえば暗殺や情報収集など、
魔王城内でも特に外部に漏れてはならない機密事項が多く扱われている軍だ。
そのためか、キルたちのいる部屋に通じる廊下には、
内部のものしかわからない罠が仕掛けてある。
はじめて来てひとつの罠にかからなかったのはフローラとローズ、
肩に乗っていたキスケしか今はいない。
特にローズは罠が仕掛けてあったことには気がつかず、
無意識で回避していたと言うのだから当時のホースディールらは、
思わず言葉を失ったらしい。
一方、ロードクロサイトは全ての罠を発動させておいて無意識に回避、破壊…
と、ある意味で全員を驚かせたと言う、らしいといえばらしいことを何度も行っている。
「すみません、あのゴミくず対策をしていたもので…。できれば僕の手で葬り去りたくて。」
「だそうじゃ。妾は妾で今回得た情報などを分析しておる。
ジキタリス様の過去も垣間見えたゆえに書き足さねばらならないからのぅ。」
「某は…じゃなくて魔王様、久方ぶりでございます。
時にお伺いしますが、この肉料理…食べていただけな…。」
「クラマ、ちゃんと残さず食べてください。大体、師匠が今いないので駄目ですよ。」
挨拶しにいけなかった理由を話すキルにタマモも乗り、クラマも乗りかけ頭を振る。
本来、烏天狗は肉料理や油料理がすきなのだが、クラマは野菜が主食な草食系。
目の前の夜食にうんざりするクラマは短い黒髪をかき上げ、
アンダーで隠れた口をそのままに黙って食事を取る。
だんだん下がっていく頭と垂れていく背中の翼にキルは大きくため息をついた。
「タマモさん、そろそろ解放しないとまた…倒れましたね。」
もう無理、と言わんばかりに机に突っ伏すクラマにタマモは楽しげに笑う。
「本当に相変わらずだな…。あんまりからかっていると烏天狗が白烏になって羽が抜けるぞ。」
肉料理の代わりに胃薬を置いたタマモはロードクロサイトの言葉にしばし考える。
「おお、そうじゃ。クラマ、確か一番下の妹が白烏といっておったのぅ。
最近話を聞かぬが元気かの?」
「ハツユキならば昨日、某の風切り羽を毟って羽根ペンに加工して行ったがなにか…。」
翼で顔を隠し、胃薬を飲むクラマは一枚かけた部分を示す。
「そういえば烏天狗は全員黒衣に身を包んでいるのに、双子の妹だけが全身白衣だったな。」
「セッカも白烏ゆえにこの先婿選びが…はぁぁあああ…。」
女性が圧倒的に少ない烏天狗の悩みだが、
それに加えて希少な白い烏天狗とくればさまざまな問題があるのであろう、
クラマは大きくため息をついた。
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