蒼の龍と赤の化身

 


 一行が準備できたのか、布袋に荷物を詰め込むと方角を確認し歩き出した。
勇者一行なら必ず持っているこの布袋は、大きさで言えばエコバックほどの口が紐で閉まるものだ。
だが中身はどういうわけか薬はもちろん、弓や剣などの武器から鎧などの防具までどんな大きさのものでも入ってしまう。
おまけに袋の大きさはどんなに詰め込んでも変わらないというのだから謎の道具だ。
一般でもヘイラーの持つ荷物のように、薬なら最大200まで詰め込める薬売り用のリュックや武器や防具でも入る商人用のリュックなど、勇者一行よりは内容量が少ないものが使われている。
ちなみに生きている動物は猫が最大で人間は入れないため、人攫いは別の方法を使っていたらしい。
「チャーリー、こっちは準備できたわ。どうする?」
「何か見張られている気がするので…。早く行きましょう。」
 辺りを見回すチャーリーにネティベルもそうね、と頷き、ヌリカ大陸のある方角へと顔を向ける。
そこにある魔王城を睨むようなチャーリーは背後からの音に首をかしげ、
気配を探るベルフェゴを見た。
「ベルフェゴ、なにか…いる…かな?」
「遠くから…何か来てる気がする…。すごく大きな…。」
 風が木々を揺らす中、チャーリーは気配を探るのに特化しているベルフェゴにたずねる。
何か来ているというベルフェゴは突然、逃げて、と声を上げた。
 一行が慌てて移動すると今までいた場所に水柱が立ち、地がえぐれる。
「気配を消していたつもりだけどまだまだだったかしら?」
 水柱が消えたそこには水色の長い髪を一括りに結んだ女性が、
閉じた鉄扇を手に立っていた。
 
 
 薄い布を幾重も重ねた青い服をまとう彼女が鉄扇を開くと、
氷のように透き通った扇面が現れ、一行に向け水平に構える。
「私は魔王軍一軍副将兼3番隊隊長、ミズチ=D=セイ。
 四天王長様の命によりあなた方を天性の勇者および一行とみなし、
 力量を測らせていただきます。」
 静かな声で名乗ると水が渦巻きながら鉄扇を包み込み、青く発光する。
「堅牢なるその岩岩よ。その強固なる力をわれらに与えよ。防御土魔法:巖阻!」
 ネティベルがとっさに唱えた呪文に地面から固い岩盤が現れ、
一行とセイの間に壁を作り上げる。
それと同時に水しぶきがあがり、壁の中心に入ったヒビから水があふれ出てきた。
「なんて威力なの!?これじゃあ…ポリッター!土魔法で応戦しなさい!」
「はっはい!森のごとく立ち並ぶ岩岩。その鋭き切っ先の森を今ここに!中級土魔法:石林」
 ポリッターが地面に手をつくと岩壁を破壊しつつ、
岩の切っ先がセイのいる場所めがけ飛んでいく。
だかそれも風に吹き飛ばされ、セイには届かない。
「風と水…氷属性!?ポリッター!爆裂魔法を!」
「あら、言っておくけど私は氷属性じゃないわ。
まぁだからといってあなたたち程度の土魔法に弱いわけでもないわ。」
 残念、と呟くセイにエリーが直接斬りに掛かっていた。
だが、セイに沈むはずだった刃は掲げた腕に当たり、まったく進まない。
まるで鋼鉄の盾に当たったかのように歯が立たない。
「こんなやわな金属で私が傷つくと思ってるのかしら?」
 すぐに飛びずさるエリーだが、セイから飛んできた水の刃がその身体に当たる。
鉄扇からはなたれた水が高水圧の刃となり飛んできたのだと、腕の傷を押さえエリーは推測する。
すぐさまネティベルの呪文が唱えられ、傷は塞がるが、
隣でポリッターの唱えた呪文が素手で弾かれることに焦りを見せた。
「直接攻撃も…魔法も効かないなんて…。」
「せっ先生!もしかして…どっドラゴンですか!?」
 なんて奴、と対策を考えるネティベルにポリッターが声を震わせる。
「でっでもポリッター君、あの女性は人の形をしているように見えますよ?」
「それにドラゴンってなっがいのじゃないの!?!」
 えぇっと、と必死に魔物事典をめくるポリッターにジュリアンとキャシーの声がふる。
その間、セイはといえばただ黙って見守るしかない。
セイの心境としては興をそがれたなどではなく、
敵の目の前で調べ物をする神経が理解できず、どうしましょう、と本気で困っている状況だ。
 
 
「ありました!古の生物で時に人の姿をしてまぎれるって!
 師匠…先生!やっぱりドラゴンですよ!」
 すごーいと喜ぶチャーリー兄弟を除く未成年組と、
痛い20代2人組にネティベルは無表情のセイを見る。
「えぇ。そうみたいね…。ごめんなさいね。マイペースで。」
「頭が痛くなるわね。本当に。あの方に怒られるけど本気で行こうかしら…。」
 深々とため息をつくセイは茨を模した腕輪に触れ、鉄扇に魔力を集中させた。