「チャーリー!ここは狭い!もう少し開けた場所に!
 ここでは攻撃も当たりにくいがこちらの攻撃も当てにくい!」
 氷の刃を投げつけるエリーはその大半が木に刺さる事に舌打ちをする。
慌てて逃げる一行だがポリッターとネティベルは振り向きながら魔法を唱え、
防御と攻撃を交互に行っていく。
煩いハエを払うかのように難なく素手で弾くセイは、
遠くに聞こえる海の音にもう少し本気を出そうかしらと考えた。
 
 
 不意に気配を感じたロードクロサイトは一行の様子から目を離し、
ローブで隠れている物体を見つけ眉を寄せる。
「ローズ、化身で来たんじゃないのか?」
 部屋の中に入らず、うろうろとさまよっているローズに声をかけると何も答えず、
立ち止まった後フローラを呼ぶ。
ん?、と首をかしげるロードクロサイトは、
思わず逃げようとしたローズの足元に蝙蝠を呼びんだ。
突如現れた蝙蝠の作る渦にローズは変な叫び声を揚げながら吸い込まれた。
ロードクロサイトの目の前で作られた渦から落ちてきたローズは尻餅をつく。
「いった〜〜〜!!!」
 突然の衝撃にうめくローズだったが、声が違う。
ハスキーがかった声にどこかで聞いたことのある声だと、
ロードクロサイトは足元にいるその塊のフードを剥ぎ取り固まる。
「通常インキュバスなら蝙蝠翼の生えた犬だし…吸血鬼なら蝙蝠なのにね。
 どうして化身がサキュバスなのよ。」
 まったく見てて飽きないわね、と笑うフローラはローズ…シィルーズを起き上がらせ、ローブを外させた。
 
「こぅ、化身ってさほんのちょっとの魔力でべろんって感じでこう…。」
「言いたいことはよくわかるわ。混乱しながら必死に感想を言わなくてもいいのよ。」
 わたわたと説明するシィルーズ姿のローズだが、
生まれたときから化身を持つフローラたちはやれやれといった感じで落ち着かせる。
「途中から化身を持ったわけじゃないけど…感覚的にはそんな感じね。」
 巻き毛の毛並みが美しいブロンドの猫へと一瞬で姿を変えたフローラはねぇ、
とロードクロサイトに同意を求めた。
背中に生えた小さな蝙蝠の翼を動かし、うらやましげに見るシィルーズを見る。
「そういえば翼を生えてないのかしら?」
 再び一瞬にして元の姿に戻ったフローラは蝙蝠の翼を出し、やり方は一緒のはずよという。
「えぇっと…翼はまだ試して…。あぁ、やっぱりまともな翼じゃないし。」
 立ち直ったローズはシィルーズのまま翼をだしてみる。
いつもなら左翼だけ出るのだが、今回は右翼だけ不可思議な形の翼が現れた。
ヒラガーナの“つ”のような黒い光の塊とそれに囲まれた丸い光。
そんなシンプルな翼にもちろん飛ぶ力があるはずもなく、うな垂れる。
 
「せっかくなんだからヌリカ国に行って服でも買いに行かない?」
「え?このシィルーズって自分で付けたのもあれだけど、この姿分の!?
 いらないでしょ…。」
 今の服装はローズが普段から着ている裾がひらひらとした軽装だが、
もともと男物(?) の服は今のシィルーズの体形には合わない。
それをみたフローラは普段ローズであれば見せないような笑顔で行きましょう、と微笑む。