ウェハースが目の前に現れたことにセイは無意識のうちに瞳孔を細めた。
龍独特の縦長な瞳孔に次第に力が入り、消していたヒレの様な角が耳の後ろに現れ始める。
『よくものこのこと…。』
イングリシウ語で罵るセイにウェハースはようやく誰かを思い出し、
ひぃっ、と声を上げた。
「たったったしか…。あの一軍の…うっ渦のどっドラゴンの…ミッミズチ様。」
『お黙りなさい。ノッティング。あなたのおかげで一軍も二軍も被害ばかり。
ファザーン様に代わって葬りたいわ。』
あたふたと逃げたそうなウェハースにセイはそのままイングリシウ語で不機嫌に言う。
ジャポネーゼ語を話すウェハースからなんとなく因縁を感じ取り、
ポリッターは守るように魔法を強めた。
ジミーもまた移動系の召喚獣を出すとウェハ−スを乗せ、移動速度を上げる。
「あら、あんなのでも役に立っているのかしら?」
「目を向けさせたりするのに…ね。知り合いだったなんて…。
当たり前といえば当たり前ね。」
ただの石ころじゃない、というセイにまぁそれなりにはと返す。
「あ〜あ…やっぱり1軍の方々は怖いですねぇ…。」
「だな…。まともな女性が少ないなぁ…。」
逃がすものかと水の刃を向けるセイをチャーリーらが必死に立ち向かう。
飛んでいく刃から離れた飛沫が周囲に飛び散り、
一行へダメージを与えていくのをみたキルは感心したように呟いた。
だが返ってきた返事はう〜〜んという声だけ。
「まだ言ってたんですか?サキュバスがいいのでしたらフローラ様の友人などは…。
フローラ様の妹様でも…。」
「フローラの妹…フォーリアか?あれはないだろう。
色気ないし…サキュバスなんだからもう少しスタイルが良くても…。
あれはあれでもてているらしいから意味がわからん。」
まだその話かと呆れるキルは一行に目を戻す。
「キルはまだ子供だからわからないか…。」
「許婚がいますしね。師匠…ジキタリス様がいたところで話が進む気がしませんが…。
軍上層部でまともに彼女がいないのは魔王様ぐらいで…
あぁあとジキタリス様、フローラ様もですね。そのお三方ぐらいしか…。」
子供にはわからない話だな、という言葉にキルは内心むっとなり、
ちくちくとロードクロサイトの痛いところを付く。
「ジキタリス様とフローラ様は淫魔ですので、普通婚姻を結ぶことはしません。」
「子供といったことで怒っているのか?いや、ガルーダとキスケもだろう。」
「スバルナとキスケ様は鳥人と魔獣ですし…。まだスバルナは番となる適正年齢に
なったばかりでそのような場には出たことありません。
また、キスケ様は特殊体の魔獣でまだ若いですから。
それよりも監視に集中してください。」
魔王軍随一の情報力を誇る2軍の長。
ロードクロサイトの言葉に最新の情報を伝える。
まだぶつぶつと言っている魔王を放っておき、キルは再び一行へと眼を戻した。
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