少し時間は戻り魔王城。
「ローズ…まだフローラにつき合わされているのか?」
「そういえば遅いですね…。」
何を隠そう森での追い込みは3時間ほど続き、更に休憩に1・2時間。
それだけ時間がたっており、買い物にしては遅いと念話を飛ばすが、
楽しげなフローラの声のみでローズの返答はない。
「それでキル、目玉焼きには酢だよな。」
「なんですかそのゲテモノ料理は。しょうゆでしょう。
大体、スイカに砂糖とかどういう味覚ですか。
何もかけずに食べるか、塩で甘みを増やすかです。」
意味がわからないというキルにロードクロサイトはそうか?と首をかしげた。
「ゲテモノって…。なんか以前のキルと少し違うというか…。」
「魔王様は尊敬しておりますが、
さすがにゲテモノ料理はゲテモノ料理以外言いようがないじゃないですか。」
ちいさくため息をつくキルは何かの気配を感じ、顔を上げた。
ロードクロサイトも気がついたのか顔を上げると集まる闇に反射的に手を出す。
「ふぎゃ!」
蹴りだされたように降って来たシィルーズはロードクロサイトにぶつかり、
潰れた悲鳴を上げる。
その後を追うようにキルの隣に集まる闇からはフローラが鼻歌交じりに出てきた。
あら、と目の前の事故に笑うのみ。
「ロー…シィルーズごめんなさいね。背中叩いたせいかしら。」
「叩いたじゃなくて殴ったんでしょ!!って魔王様放してください!!!」
「どうにか分離できないのか?」
楽しかったわ〜と喜ぶフローラにシィルーズは振り向きざまに怒鳴り、
ホールドしているロードクロサイトに顔を赤くした。
またぶつぶつといい始めたロードクロサイトにキルはため息をつき、
月が昇ってきたことを見るとフローラに挨拶し、鬼火を残して実家に帰る。
「で、何をしてたんだ?」
うるさいと蝙蝠で口を塞いだシィルーズを背から抱き込み、フローラに問う。
以前とは違う白い服に薄桃色のスカーフを巻いた姿のシィルーズは、
大きくため息をつくとふてくされたようにおとなしく、ロードクロサイトの上に座ったままになった。
元々ローズの姿のときから力に関してはロードクロサイトとの間に、
越えられない壁3枚分があるためだからだが、
クマの人形のように抱えられることにむっとする。
「シィルーズのときのための服をね。フォーリアは絶壁だから楽しかったわ。
ほんと選びがいがあって…。ついでにローズ用の服も調達したのよ。
貴方本当に男性向けの服じゃ大きすぎて似合わないのね。」
うきうきと話すフローラにシィルーズは眉をよせる。
怒鳴りたいのを堪えるように息を吸うとあのね、と声を出す。
「確かに男性物はほとんど着られないけど、だからって女性物の…
ましてやスカートとか…ありえないんですけど!!!
とっかえひっかえ…。まったく人を着せ替え人…ぎょ…うのように。」
疲れたとばかりに頭を振るシィルーズは自分の言葉に一瞬声を詰まらせた。
「まだだめなのか?というか…なんでローズにスカート…。」
「あら、意外に似合ってたわよ。念写で見る?」
フローラがこれ、と手に挟んだ紙に魔力を流し込むと、
シィルーズは慌てたように奪い取ろうとする。
その上から写された紙を受け取ったロードクロサイトはシィルーズの手が届かない位置にまで持ち上げた。
「はー。魔の神に頼んでサキュバスになったほうがいいんじゃないのか?」
「じょっ冗談じゃないですよ!あ〜もう!
魔王様には言わないから着てくれたら解放してくれるって言うから着たのに…。」
そうだったかしら、と笑うフローラにシィルーズを見下ろしたロードクロサイトはところで、と切り出した。
「で、ローズ…今はシィルーズでいいか。いつまで化身の姿のままなんだ?」
「そっそうだ!これ化身だったんでした!」
【あーーーーーーー!バカッバカッ自分!】
うぅ、と心の中で叫んだはずの言葉が念話で叫んでしまい、ロードクロサイトの耳に響く。
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