ひとしきり騒いだシィルーズはあのぅ、と振り向いた。
「戻るときって化身に変化する時と同じでいいんですよね?」
「一応化身化で練習したんだろうが。その時はどうしたんだ?」
 不安げな顔でロードクロサイトに問うシィルーズに、ロードクロサイトは片眉を上げた。
「えぇっと…。なんといいますか…。化身…なるの初めてなんですよ。
 なれるようになったっていう感覚はあって実際にやったら本当だったというような…。
 念話では普通にローズの声だったんですが…。
 あの時からもう変化していたといいますか。それで戻ったことがないんです。」
「そうだったの。それにしても説明するのが難しいわね…。
 化身する時と違って、元に戻るよう念じるというか…。」
「戻ろうと思えば戻れるだろう。」
 先輩格の2人に言われ、ぶつぶつと戻れ戻れと念じ、ようやく身体に変化が起きる。
「あ、ローズ。一緒に服も変えないと女装になるから気をつけなさい。」
「遅いってば!一度着替えてきますから魔王様、放して下さい!!」
 シィルーズの服のまま元の姿に戻ったローズは顔を赤くし、
どうにかロードクロサイトの腕から逃れようと身をよじった。
ロードクロサイトはぱたぱたと必死にもがくローズを見ると、面白いな、
と腕に力をこめる。
「はーなーしーてくださいーーー!!」
 顔を真っ赤にしたローズに飽きないな〜と笑う魔王。
つかまっているローズとしては絶好のチャンスのはずだが、
耳まで赤くした今では恥ずかしさが勝り、必死にもがいている。
 
「わかったわかった。そう暴れるな。」
 突然解放され、勢い余って転ぶローズはすばやく立ち上がると、
そのまま脱兎のごとく走り去っていった。
面白かったなーと笑うロードクロサイトにフローラもでしょ?と同意する。
 
「うわっ!」「ジキタリス様!?」
 何かがぶつかる音がし、セイと思われる声が聞こえる。
ん?とロードクロサイトは蝙蝠を見ると確かについさっきまでいたはずの彼女がいない。
いつのまに、と考えていると業を煮やしたジュリアンがポリッターの出した、
上級土魔法の“巌欒”で生み出された巨大な山のような大岩を投げつけ、
相殺し切れなかったダメージがドルイドンに当たる。
血の止まらない水中にいるドルイドンにとって、
大怪我をするのは致命的ダメージに繋がりかねない。
上空から見下ろしていたらしいスバルナの鳴き声に反応し、
最後とばかりに稲妻の球を蹴り飛ばすと人に化け、スバルナの背に飛び乗った。
 
 
「そろそろか…。」
【ドルイドン、ご苦労だった。で、どうだったか?】
 こちらも準備しないとな、とのんびり構えるロードクロサイトはポリッターの出す稲妻を避け、まっすぐ城に向かって飛ぶスバルナとドルイドンに念話を送った。
【あのバカ力女!ほんとうに冗談じゃねぇよ!
 それにあの黒服と若繕いしている賢者の女!
 ご丁寧に逃げ道全部塞ぎやがったあん畜生!!!!】
【こちらはすぐにドルイドンを治療の間に運びます。
 キスケ様には私から報告いたしますので。】
 痛いのを堪え、一行の戦闘状況を話すドルイドンにスバルナは戻ることを伝え、
そのまま飛んでいく。