扉に張られた張り紙にロードクロサイトはどこで暇を潰そうかと、城を出た。
振り返り、城を見上げれば鍛錬所があると思われる壁が見事に破壊されている。
ローズに戻ってからも続けた後、城の大浴場でさっぱりした2人だったのだが、
まさかそこまで酷いことになっているとは気がつかなかったらしい。
そのままローズは治癒の間に行き、フローラにロードクロサイトだけが怒られたのだ。
不公平だ、とロードクロサイトは再び城に足を踏み入れ、治癒の間へと向かった。
「ロードクロサイト様、こんな早朝にいかがされましたか?」
 中に入るなりケールラが顔を上げ、
落ちた青い羽にややショックを受けながらおはようございますと挨拶をする。
「そういえば…朝だったな。眠気が覚めてたんで忘れていた。
 明日の朝寝るか…。ローズはどうしている?」
 昼寝でもいいか、と考えるロードクロサイトにケールラは暗い部屋の中を振り向いた。
「ジキタリス様は…。アフロ…クス様―。ジキタリス様は今どこに入られてる?」
「アロフェロックスだと何百回いったら…。あぁ、魔王様。
 ジキタリス様は丁度眠ったところで一番奥の槽の中に…。あれ?魔王様?」
 蹄を響かせ現れたケアロスは白馬のケンタロスに何かを渡し、
一番奥にいるとロードクロサイトに伝える。
通路奥だと指を指していたケアロスはロードクロサイトを振り向き、あれ?
と首をかしげた。
まさかと、治癒の間奥に眼を走らせると薄暗がりを歩く青い髪。
「まっ魔王様!今日は魔力は要りませんから!
 それにジキタリス様は今眠ったところなので…。」
 
「っわーーーーーーーーー!!!!!」「 っ!」
 
「あぁ…ジキタリス様すみません…。」
 慌てて呼び止めようと駆け出したケアロスの耳に、
くぐもった叫び声と驚いたようなロードクロサイトの息遣いが聞こえ、
ケアロスははぁー、とうな垂れた。
わたわたと慌てるケンタロスの女性やら鳥人の女性などが必死に何かを隠している。
「化身姿がサキュバスなので念のためにと身体検査をしていたんです…。
 ジキタリス様が恥ずかしいとおしゃるので…。」
「わかっていたら少しは考慮したんだが…。」
 まったく、とそっぽを向いたロードクロサイトのすぐ目の前、
女性たちが目隠しをしている青く光る円筒状の水槽にいたシィルーズは、
体中に付けられた管を気にしながらも必死に身を隠している。
その隣に設置された機会が激しく震え、
中にいるシィルーズの鼓動が異常に早くなっていることを告げていた。
「何か叫び声が聞こえると思ったら…。イーナ、お疲れ。
 もう記録は揃ったわ。出していいわよ。」
「はっはい!ドゥリーミー様。」
 白いウサギの獣人は、現れたフローラの指示に動き出すとすぐさま管を回収し、
シィルーズを出すため奇妙な形の装置を動かす。
中にいたシィルーズの姿が消え、
外にあった円盤状の台に現れるとフローラの差し出したローブを羽織り、
ローズへと戻った。
「びっくりしました…。普段寝ている時は奥まで入らないので
 油断していたのもありますが…。」
「ドゥリーミー様のご協力で出ましたが…。
 半吸血鬼は変わらずで半インキュバスでなく、
 半サキュバスに構造ともども変わっているようですね。」
 気が散っているのか、思い通りの服を出せずに何度も指を鳴らすローズに、
月色の毛並みをしたケンタロスが告げる。
「ありがとう、ムーラ。あんまり化身化しないほうがよさそうだね。」
 ようやくローブを外したローズは、城でよく着ているひらひらとした肩が出ている服にズボンという私服になり、眠いとあくびをした。