「人間の部分が完全に消えても勇者の紋は消えてないんだな。」
再び管を付けられ、円筒状の水槽に入れられたローズを見上げたロードクロサイトは、
見える勇者の紋に目を留めた。
気絶して魔力が途絶えたがために、
魔力でだした服が消えたがために見える勇者の紋は変わらず光っている。
「らしいですね。それに能力も消えてません。それにしても…」
ローズのダメージを見ていたケアロスは半眼でロードクロサイトを睨む。
首をかしげるロードクロサイトに後ろ脚の蹄を鳴らすと小さくため息を漏らした。
「左腕の回復具合ですが、どうして70%回復から40%にまで減ってるんですか!!
だいたい血を飲みすぎです。」
「手合わせの時ローズも無意識に防御で左腕使っていたからな。
血を飲んでも魔力を与えてるぞ?」
どうして手合わせでこんなダメージになるんだと呟くケアロスに、
ロードクロサイトはこともなげに言う。
「魔道具じゃないのですから魔力だけ与えてもダメです。」
「ケールラ!ジキタリス様にその言葉は禁句…。」
ダメですよー、というケールラにケアロスは鋭く注意するが、
水槽にひびが入ったことで身を強張らせた。
半透明だった液体がローズを中心に黒く染まるとさらに深いひびが入り、
ロードクロサイト以外を吹き飛ばす。
「ローズの“狂気”は本当に危ないな。
起きている時はともかく、“人形”と“道具”の単語を、
ローズを示して言うとこうなるから今後気をつけてくれ。」
まったく、というロードクロサイトは涼しげな顔で、
怯える青い尾羽の長い鳥…ケールラを振り返った。
何とか踏みとどまったケアロスの結界に守られているが、言葉が出ないほど震えている。
「ケアロス、ダメージは極力減らしたほうがいいんだろう?」
闇の結晶が生え始めるのをみたロードクロサイトは抑えていた魔力を解放させていく。
「そっそれはそうですが…。たしか以前この状態になったジキタリス様って…。」
「あれはやりすぎた。戻ったのに気が付かなくて手加減なしの蹴りを入れたからな。」
ローズがいるであろう場所から濃い殺気がこぼれてくるのを確認したローとクロサイトは、
ここで抑えるのかと眼を閉じ大きく息を吐く。
普段抑えている魔力を80%ほど解放させると同時にロードクロサイトは眼を開く。
疲れたといいながら血を吸ったローズを放したロードクロサイトは、
修復した治癒の間を振り返る。
入り口以外が真新しくなった室内は以前と変わらない。
「ほとんど外傷を与えていないからすぐ目を覚ますだろ。魔力を使いすぎた。
私は寝ているから何かあればキルを通してくれ。」
物陰から恐る恐る覗くケアロスらにロードクロサイトはローズを放ると、
大きくあくびをし、その場を立ち去る。
「はっはい!まっ魔王様…お怪我は…大丈夫でしょうか?」
「あるわけないだろう。爪が少し折れたぐらいと…
あぁ、髪が少し焦げたな。それぐらいだ。」
眠いといってケアロスの言葉を流すとロードクロサイトは自室へと戻って行った。
「それにしても…。ローズのトラウマはまだ継続中なのか…。
まだ100歳だから若いと言うか…いや、別に私が歳をとっていると言うわけじゃ…。」
あれ?と首をかしげるロードクロサイトは3分ほど考え、
頭が痛くなってきたと寝ることとした。
不意に何かの気配に気が付いたロードクロサイトは、
丁度様子を見に来た侵入者を捕まえ、その場に倒す。
「何だローズか。具合はもういいのか?」
すぐに誰かを見たロードクロサイトは顎を打ったローズを引き起こし、
椅子に座らせる。
「ノックして入れ。」
「すっすみません…。まだ今ので眩暈が…。
あの…ほとんど覚えていないのですがケアロスらに聞いて。
闇の水晶と狂気を解放させてしまったようで本当に申し訳ございません。
おかげで治癒の間が大破しそれを魔王様が魔力で修復されたと…。」
すぐにロードクロサイトの前に跪くと頭をたれる。
「本来は処罰を与えたいが…もうすぐチャーリーらが来るからな。
それが終わった後に処罰を与える。いいな?」
「いかなる罰もお受けいたします。
それとこのような騒動を起こした後で申し訳ないのですが、
ひとつお願いがあってまいりました。」
まったく、というロードクロサイトにローズはさらに頭をたれると、
そのまま言葉をつむいだ。
ローズの言う“お願い”にロードクロサイトは珍しく眉間にしわを寄せ、
魔王らしい威圧感を体からにじませた。
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