勇者一行が上陸したという知らせはあれから3日後。
ようやくというのが正しいが、ついにやってきた。
この魔王城に行くためには“中立の町”を通らなくてならない。
そこは魔物に支配された人間の町モスペカズがあり、
もう何世紀にもわたって魔物との共存が行われていた。
召喚獣から降りた一行はすぐ目の前の町にやや言葉を迷わせる。
「ここが…魔王がいるヌリカ国。」
「それにしては…こう緊張感がない町ね…。」
チャーリーとネティベルが戸惑うのも無理はない。
今まで見てきた町となんら変わらない。
ただ違うのは魔界人が我が物顔で町を歩いていること。
入る直前、看板が立てかけられており、
そこにはジャポネーゼ語とイングリッシウ語の両方がかかれていた。
「《町の中での戦闘・殺傷・死刑・食人行為は硬く禁ず。
違反したものは直ちに魔王軍より抹消処分が下される。》だと。
いったいここはなんなんだ?」
看板を読み上げるエリーは不意に近づく気配に短剣を握る。
一行もすぐに気が付き構えると小さな少年が2人やってきた。
「ここは中立の町、モスペカズ。4軍管轄下に何か来たかと思えば。」
青い髪を逆立て、額に赤い宝玉が埋め込まれた少年はやれやれとため息をつくと、
傍らの少年と顔を見合わせる。
セミロングの黄色い髪をした少年は、少女にも見えるが
はっきりと分かれていないような顔立ちで額の蒼い宝玉に手を当てるように考え頷く。
「勇者一行。コノ町ノ中デノ戦闘ヲ行エバ直チニ排除サセテモラウ。
無事魔王城ニ行キタイナラ無駄ナ事ヲスルナ。」
やや聞き取りづらい硬い言葉に一行は身構えるが言うだけ言った2人は
そのまま背をむけ歩き始める。
「ちょっとまって!君たちは…。」
「お前らに名乗るわけねぇだろ。」
「行コウ。どぅりーみー様トぷりあんてぃす様ノ買イ物ヲ早ク届ケナキャ。」
呼び止めようとするチャーリーに青髪の少年は迷惑そうに腕を払い、
黄色い髪の少年に頷き姿を消す。
だが一行にとってはそのことよりも今聞いた名前に背筋を震わせていた。
「プリアンティス…まさかあの…。」
「四天王長のシィルーズ…。あいつもこの町に来ているのか。」
直接戦っていないポリッター、アイアン、ジミー、ウェハース、パシは
威圧感だけしか分からないが、ネティベルとエリーはたらりと冷や汗を流した。
ベルフェゴとジュリアンにいたっては顔を青くし、わずかに震えている。
「大丈夫だよ。ベルフェゴ。一緒に頑張ろう。」
もっともシィルーズに対して恐れを抱いているベルフェゴに、
気をかけるチャーリーは大丈夫と自分にも言い聞かせるように言う。
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