「なんだったんでしょうね?それにしても広いです。」
さっぱり分からないというジュリアンは部屋を見回しすごいと声をあげる。
「本当にすごいです!本も置いてあって…あ!この本読んだことないです!
呪いも無い様なので…。」
「考えてても仕方がないわ。
召喚獣のおかげでジミーは大分疲れているみたいだし今日は休みましょう。」
12人が入るには少々狭いが、それでもくつろげる居間があり、
その左右にそれぞれ寝室が設けられていた。
早速中に入っていくジュリアンと居間の本を読み出すポリッター。
アイアンもジュリアンの後を追うようにして部屋へと消えていく。
ジミーはやはり疲れていたのか、居間の椅子に腰掛けると珍しく聞こえるぐらい大きな息を吐いた。
「そうですね。随分長い間召喚獣を出してもらってジミーさんも疲れていますし、
水の上の旅で皆さんも疲れていますしね。」
「ちょっとこの辺見てきていいか?道中の魔魚らの戦闘で短剣がかけてしまった。」
「それじゃあ私も行くわ。調べたいこともあるし、
教会があるなら記録を残しておきたいわ。」
自然に男女別れて部屋に入ると、エリーとネティベル、
そしてチャーリーとベルフェゴは町へと降りていく。
道には耳の長い女性や体に羽が生えている明らかに人間じゃないものも
人間に混じり生活している。
「本当に魔人が歩いてる…。なんだか変な気分だね。」
チャーリーはベルフェゴと歩きながら物珍しげに店を覗いていった。
妙な食べ物らしいものを扱っている店や今までに見たこともないような薬草、
回復薬などを取り扱う店。伝説までは行かなくとも使い勝手のよさそうな武器や防具。
「本当にここが最後の町…なのかな?」
「一応ここでそろえたほうがいいと思う…。兄ちゃん前!」
どうしようか、と考えるチャーリーにベルフェゴが慌てて声をかけた。
慌てて立ち止まるチャーリーに小柄なものがぶつかる。
「すっすみません!大丈夫で…」
ぶつかったはずの影は小さく縮み、一匹の三毛猫がそこに頭を振りながら座っていた。
「びっくりしちゃった。あら、前見てニャくてごめんニャ。」
あぁびっくりした、としゃべる猫は二股に分かれた尾を振りながら立ち上がり、
チャーリーの目の前で再び人型になる。
大きく突き出た三角耳が覗く頭にはカチューシャを。
身体にはエプロンを見にまとった魔人は埃を払い、不意に顔をあげた。
まじまじと見つめていた2人は目が合ってしまい、小さくすみませんと頭を下げる。
「いいのニョよ気にしニャくて。あぁ!いそがニャきゃ!
ジキタリス様ニョ朝食に間に合わニャくニャっちゃう!
シャムリン様にも怒られちゃうー」
それじゃ、と走り去っていく猫娘は人ごみを避けるためか再び猫の姿になり、
屋根伝いに走っていってしまった。
「ジュリアンさんみたいな服装だったね。」
「猫のメイド?」
顔を見合わせる2人はその後もしばらく街を回り、宿へと戻っていった。
だが、その道中大きな馬車が大通りに止まり、なんだろうかと立ち止まる。
他の通行人もなんだろうかと見上げ、あぁ、と笑った。
「すごい人数の気配がする…。人じゃない。」
「でもそんなに入れそうじゃ…。」
ホロをかぶせた馬車の後部が開き、猫が飛び出す。
いつの間にか通行人たちが開けた広い空間に規則正しく並び、
一斉に先ほどの三毛猫のように魔界人へと姿を変える。
御者台から幌の上に飛び上がったシャム猫も姿を変え、
お揃いの服を着て並んでいる猫娘らとは違う服に身を包んでいた。
「ニャん日分必要にニャるかわからニャいんだから各自決められた材料を調達すること!
じゃあ散!!ヘんニャ食材は買わニャいこと!!」
その号令と共に猫娘たちは一斉に頭を下げる。
「「「かしこまりました。シャムリン様。」」」
一呼吸も乱れずにそう返した猫娘たちは一斉に四方へと散り、
出店や建物へと消えていった。
御者もどうやら猫娘たちに近い姿にみえるが、少し大柄な体つきをしている。
目深に被った帽子のおかげで耳は見えないが、
猫らしくない毛の長い尾を揺らしため息をついていた。
立ち止まっていたチャーリー達はその光景に圧倒され、
通行人らにぶつかりそうになりはっとなる。
「なんか変な感じだね…。」
「行こう、兄ちゃん。」
幌から飛び降りた猫娘に幾人かが声をかけ、
笑いあう光景にチャーリーは眉をひそめ、ベルフェゴと共に宿へと向かった。
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