一行が通ってもまだ広い跳ね橋を通り、見上げるほど大きな扉を見上げる。
茨に囲まれた逆さ十字に舞う羽。にらみ合う、
蝙蝠のような翼を生やした巨大な一対の生物。
それがチャーリーの見上げた扉からえた装飾の印象だ。
大きく息を吸うと意を決したかのように声を張り上げる。
「我、“絆”の性を受けし天性の勇者。汝が先に鎮座する魔の王を倒さんがため、
 フレッシュミントより参った。この扉を開け、我らを入れよ。
 我名はチャーリー=ポウェルズ。ひらけ魔の門よ!」
 光を放つ大扉は軋みながら大きく、一行を招くかのように内へと開く。
砂煙を上げながら轟音と共に完全に開くと数匹の蝙蝠が飛び出してきた。
 
 
《天性の勇者よ。我らの領域に入りたくば我らと戦いし者のみを入れよ。
 ここより先に入りし者は全て我らの攻撃対象とせん。
 さぁ、臆すことなく歩みを進めよ。
 愚かなる勇気を振り絞り、その愚かな正義を我に示してみせよ。
 我らが王を倒さんとするもの、我ら4の試練を越え証を奪いてみよ。》
 城の中から響く声は男なのか女なのかはっきりしない。
だが、明らかな敵意が含まれていることにチャーリー達はぶるりと身体を震わせた。
この敵意と殺気は間違いなく四天王長と名乗ったあの赤毛の女性…シィルーズだ。
だが少し声の感じは違う。
どこかで聞いたような気がしたチャーリーだが、すぐに頭を振り切り替える。
 
「パシさんとヘイラーさんは宿に戻っていてください。ちゃんと休みに戻りますから。」
 先ほどの言葉に従い、戦闘員ではない2人にチャーリーはそう言う。
戦うことのできない2人はわかったと頷いた。
「あぁ分かった。無理せず休みに戻るんだぞ。いいな?」
「わっわしらも何度かやっ宿に戻ったんじゃから無理するんじゃないぞ。」
 手を振り見送る2人を背に、一歩踏み出し先導をきると一行もそれに続く。
 
 
「まっくらぁ。」
「本当に暗いな…。」
 中に入れると先は見えない闇に包まれている。
一行が中に入る頃合を見計らうように大扉は再び轟音をたて閉じられた。
完全な闇になると同時に光る霧が辺りを包み、ぼんやりと闇を照らす。
「なにかしら…。気をつけて。何か巨大なものが見えるわ。」
 魔法をすぐ出せるよう構えるネティベルにジュリアンもすぐ攻撃できるよう構える。
あたりが見渡せるほど明るくなると生垣が姿を現した。
一行を待つかのように開いた切れ込みの向こうは霧が深く見通すことはできない。
《ようこそ。ここは幻とまやかしの領域、無限迷宮。
 さぁ、私の花園に足を踏み入れなさい。この4軍の領域へ。
 さぁ。お入りなさい。》
 響く声は若い女性の声。軽やかに笑う声はあのシィルーズではない。
さすがに最初にいるはずはない、と首を振るチャーリー達は顔を見合わせ迷宮へと足を進める。
「皆さん、離れないでいきましょう…。何が待っているか分かりませんし。」
「そうだ!いい事思いつきました!前にいる人と手を繋げばはぐれませんよ!ね!」
 慎重に進むチャーリーにジュリアンはそうだと目の前にいるポリッターの手を掴む。
驚くポリッターだったがすぐにキャシーと手を繋ぎ、キャシーはウェハースの手を取る。
チャーリーも傍にいたネティベルと手を繋ぎ、ネティベルはエリーの手を取る。
アイアンはジミーと手を繋ぎ、ジミーはほんの少し立ち止まると帽子をわずかに上へと直した。
「あれ…ベルフェゴ?」
「アイアンとジミーもいないわ…。…エリー?」
 振り返ったチャーリーは弟の姿を探すが姿は見えない。
キャシーの大きな体の影も見えず、一瞬切れる霧にだれもいないことに気が付いた。
それどころか来たはずの道がない。
「この迷路…。ただの迷路じゃないわ。まったくエリー…手を離すなんて。
 チャーリー!ジュリアンは!?」
「えっ!?僕と手を繋いで…。いない…。」
 あせるネティベルはチャーリーを振り向き、声を張り上げる。
すぐに手に力をこめるとネティベルは素早く麻紐を取り出し、
チャーリーの腕と自分の腕を結びつけた。
「これではぐれないと思うわ…。気をつけて。
 ここにいる四天王を倒せばすぐに合流できるはずよ。」