なぜ自分はこの人と行動しているんだろうか、と考えるジミーは、
霧でアイアンが掴む腕以外見えていないことを確かめ、帽子をずらす。
「――――。―――。」
「えぇ!?なにかいったのぉ?ねぇこっちにみちあるよ!」
来た道を戻っているからそっちじゃない、
と言うジミーの言葉を無視したアイアンはズルズルとジミーを引きずる。
「―――。―――。」
「え?こっちじゃないのぉ?じゃああっち?」
ようやく立ち止まったアイアンにジミーは合わせていた歩調に息を整えた。
「なんかジミーくんのこえがきこえにくいよー。」
「―――。―――。―――。」
ぶつぶつというアイアンにジミーははっきりと告げる。
この霧の中ではアイアンの力が弱まっていると。
またもや聴こえていなかったのか理解しなかったのか、
反応せずに歩くアイアンにジミーは大きく息を吐いた。
「うちがちゃぁんとジミーくんまもってあげるからね!」
「――。」
あさっての方向を振り向くアイアンにジミーは前、と注意するがそのまま生垣へと衝突する。
ぶちりとジミーの中で何かが切れるがアイアンは強引に生垣へと入ろうとし、
気が付いていない。
不意にがさがさと音がし、ジミーは眉を寄せた。
「―――。―――。」
「なにかくるのかなぁ?」
何かが歩く音がし、ジミーは角から出てきた姿に目を見張った。
アイアンにはまだ見えていないが人ではない。
「《おや、人間の娘が1人と…はて。人の子にしては妙な気配の男一匹よ。
なんとも奇妙な組み合わせよのぅ。》」
姿を現したのは4つ足の獅子の体に女の顔…スフィンクスだ。
岩に似た性質の身体を震わせ、首をかしげる。
スフィンクスの言葉にジミーは深く帽子を被り“眼”を隠す。
アイアンはようやく見えてきた姿に首をかしげ、猫?と呟く。
「《わらが猫とな。わら達スフィンクスを猫とな。
頭の悪い小娘めの知識は貧しきものよ。
わらの出す問いに答えられればわらは退こう。
間違えし時は入り口まで戻ってもらおうか。》
ほぼ無表情なスフィンクスは楽しげに笑い、行く手をふさぐ。
「なぞなぞ?」
「《わらの相手は娘がするのかぃ?わらとしては男、お前に問いたい。》」
首をかしげるアイアンにジミーは身構える。
「《わらは問う。闇の精霊シェイドと風の精霊シルフの子にして人の子でありしお前に問う。
最初は小さく狡賢き者。次に来るは気ままな者。猛き者に続き、臆病者が姿を現す。
さて、その次に姿を現すのは何か?答えよ男。》」
笑うスフィンクスの問いにジミーは言葉を詰まらせた。
「せいれーってよくえほんにいるの?ジミーくんはせいれーなひとなの?」
首をかしげすぎて体がくの字以上になっているアイアンにジミーはちらりと目を向けた。
わかっていなさそうなアイアンはさておきジミーはひとまずスフィンクスの問いを考える。
(最初が小さくて…次が気まま…。小さい…ミミズ?あぁ蟻かも知れない。ダニ?)
ジミーはぶつぶつと考えるが出てくるのは虫ばかりで思いつかない。
「《それにしても面白き男よ。羽はお有りか?》」
「――!」
笑うスフィンクスにうるさいというと再び考えに没頭する。
まるで意味がわからない。
「――。――。」
「たけきものってつよいの?つよいといえばとらさんだよね!」
猛きもの、と意味を考えるジミーの独り言にアイアンはのんきな声を上げた。
「だってとらさんってふさふさのけがはえてて、がおーって!
2ひゃくじゅうのしもべだっけ?」
「《娘。馬鹿という言葉を超える存在だ。言いたいのはライオンか?
百獣の王であり僕でもない。》」
あきれた様子のスフィンクスはアイアンの言葉を訂正し、
長くなりそうだとその場に伏せる。
(なんか…魔物に悪いことした気分…。猛きものでライオン…じゃなくて虎とか。
虎?えぇっとなんだっけ…。聞いたことがあるのに…。)
ここで時間を食うわけには行かないと、ジミーは懐を探り薄い本を取り出した。
「《スピリットグリフか?ほぅ…。わらははじめてみるな。
精霊の記憶したものをみる…。》」
面白い、というスフィンクスにジミーの手が止まった。
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