かつかつと靴音を鳴らしながら歩くエリーは、
爆風に服をはためかせながらジュリアンの作り出す道を歩く。
「そういえばエリーはお嬢様ですか?お兄様ですか?」
「どっちでもいいだろう…。それよりも爆裂魔法のほうはまだ大丈夫なのか?」
 爆裂属性を纏ったこぶしで霧を散らすジュリアンは、
そういえばと振り返ると首をかしげた。
めんどくさそうに返事をするエリーはジュリアンのマジックポイント…MPを気にする。
一応火属性の魔法も扱えるが土属性の魔法が使えないエリーは替わることが出来ない。
「ほとんど衝撃だから大丈夫です!うぅ〜ん。エリーは不思議です。」
「そうか?…誰か来る!」
 
 
 爆破できない壁を回るエリーは角から漂う気配に短剣を構えた。
ふわふわと現れたのは白い布…ゴーストだ。
物理攻撃が一切効かないゴーストは目の色によって属性が決まっているため、
その反対を唱えればさほど問題ではない。
だが、このゴーストの目の色は灰色。
つまりは冥属性なのでその反対である光か聖が有効というわけだ。
おまけのゴーストは属性魔法以外にあるやっかいな能力を持っている。
「確かあれは…幻術の他に確か姿が見えなくなる特徴があったような…。
 なかったような…。」
「くるぞ!炎系でも少しはダメージが通るはずだ!」
 すー、と姿を消すゴーストに離れる二人だったが、
すぐ目の前に現れエリーはとっさに短剣を構えた。
だが、実体のないゴーストにはダメージが通らない。
ジュリアンの炎を纏った拳がゴーストを追い払い、若干のダメージを与える。
いつの間にか現れた他の魔物に背中合わせとなり、隙をうかがう。
「火属性の呪文は初級魔法ぐらいしか使えない。すまない。」
 ためしに火花を出す魔法を使うがほんのわずか怯む程度しか効果は見られない。
「ネティベルらが居れば楽なんだろうが…。」
「広範囲魔法は使えませんが単体向けならこの拳さえあれば平気です。流炎拳!」
 拳に炎を纏わせ、近くのゴーストを殴りつけた。
ゴーストを一瞬で炎に包むと勢いをそのままに後ろのゴーストをも巻き込む。
「単体だけでなく直線も巻き込めるじゃないか。」
 ゴーストではない蟲のような姿の魔物を切りつけるエリーは、
横目で確認するとすごいな、と眉を挙げた。
 
 
 だが、ジュリアンを見たエリーはその横に迫る魔物に気がつき、
ジュリアンに体をぶつける。
「きゃぁ!エッエリー大丈夫ですか!?」
 突然の衝撃に驚き、倒れるジュリアンは直ぐに
足に纏った爆裂魔法で周囲を蹴り飛ばし立ち上がった。
ジュリアンに襲い掛かったのは鎌居達の魔物だ。
今、唯一炎を使えるジュリアンをかばったエリーは斬り付けられた背中にうずくまり、
戦闘不能状態になってしまっていた。
「エリー!!」
「私のことよりも…戦闘に集中しろ…っ。」
 囲んでくる魔物を殴りつけ、ジュリアンは慌ててエリーのそばに来るが
切傷に効く薬は持っていない。
回復関係はネティベルかキャシーが持ち歩いていたのだ。
「エリー、じっとしていてください。」
 かばってくれたエリーの怪我にどうすれば、
と混乱に陥るジュリアンだったが突然立ち上がると両拳に炎を纏わせた。
 鎌居達やゴースト、ダークエルフはあともう一息と笑い、
メイド服のジュリアンへと一斉に飛び掛る。
 
 
 加勢しようと立ち上がろうとして痛みにうめくエリーは
目の前で魔物たちが吹き飛ばされる様子に驚いた。
「女だからって舐めてんじゃねぇぞこらぁ。あぁん?
 仲間に怪我負わせるとは上等だおらぁ!!!」
 ドスの利いた女性の声に思わずエリーは耳を疑う。
だがその声はいつもの明るい調子とはまったく違うものの、
仲間であるジュリアンの声に間違いはない。
「ちんたらかかってきてねぇでさっさと来いよカス共。」
 手近に居たダークエルフの胸倉をつかむと、
呪文を唱えられるより先にヘッドバットを食らわせ、そのまま蹴りを繰り出す。
攻撃の構えになった鎌居達に投げつけると同時に高く飛び、
怯んだ鎌居達にラリアットを繰り出した。
その形相はまさしく鬼。
ハイキックをかますとそのまま踵落としを入れ、
みぞおちに蹴りを繰り出し5人ほどまとめて蹴り飛ばした。
「スカートんなかみてんじゃねぇぞこの変態野郎が!!」
 どんどん怒りがエスカレートしていく様子にエリーだけでなく、
見張っている方も理不尽すぎる、と総ツッコミを心の中で入れる。
怒り心頭中のジュリアンはついには子供が聞いてはいけないような
言葉を連発するようになっていった。