怒りで暴れるジュリアンにロードクロサイトはすさまじいな、と半ば感心していた。
「あれ?師匠…ジキタリス様はいらっしゃらないのですか?」
 監視という名のサボりをしている魔王を見に来るがてら、
ローズを探していたキルはロードクロサイトが一人で居ることに首をかしげる。
「ローズならさっきどっかいったが…。屋敷に戻ってないか?」
 長時間の使用により、力尽きた蝙蝠を拾い上げるロードクロサイトは
振り返りながら居ないと答えた。
手から魔力を与えるロードクロサイトに新しいのを出せばいいのに、
と内心思うがキルは何もいわずに巻物を出した。
 
「あの一行について調べた結果を見ていただこうかと思って探しているのですが…。
 アイアン=クレイジンのみ、本国であるヴァッカーノ以降の情報しか入手できませんでした。」
 巻物を受け取り、広げるロードクロサイトは細かい詳細に目を通す。
情報を集めることなどを得意とする2軍らしく、
情報は生い立ちから今に至るまで細かに記されている。
「アイアンは…あれはヴァッカーノ国のウイルスが恐ろしいからな…。
 やめて正解だ。」
 巻物を巻きなおし、キルに返すとロードクロサイトは再び暴れるジュリアンに目を移した。
「ジミー=メイデンは少々梃子摺りましたが、
 闇の精霊王ハデス=シェイドの協力があり、ようやく仕上がったところです。」
 受け取った巻物をもう一度綺麗に巻きなおすキルは
ロードクロサイトが切り替えた光景の中、
アイアンと行動を共にしているジミーを見る。
今はまた帽子を引き上げ眼で直接見ているが気配に気がつき、帽子を深くかぶった。
「あぁ、そういえばローズがそんなことを言っていたな…。
 まだ帰ってからあっていない気がするが…。」
「精霊たちはジキタリス様の体調が優れないために現れませんから。
 風の精霊王ヴァーユ=シルフは相変わらず早すぎて見えませんし。」
 そもそも見せる気ないですよね、というキルはジミーの様子を観察する。
精霊の力を使った反動か、苦しげに息が荒い。
 
 
「精霊といえば…人間界に居るエルフの森にいたんですよね?」
「あぁそうだぞ。精剣マナがどうとかで。
 今はあの森には精霊にとって何もない場所になり、住む場所を変えたからな。
 まだ森…植物属性か。その精霊王と数匹の精霊だけあそこに居るらしいが…
 エルフが住む場所を変えれば一緒に消えるはずだ。」
 人間界に残った種族…エルフの森には人間ですら行くことは困難だ。
人の手の入らない辺境の地に精霊は身を隠すかのように集まっていた。
精霊の剣マナを守るために闇の水晶の影響を受けないようにしていたらしい。
現在は保管場所が変わったために精霊らも移動している。
 やっと一行が集まりだしたことに気がついたロードクロサイトは
手に持った蝙蝠を手元で弾ませ、楽しげに一行を見る。