「18時間…。やっぱりあの一行が異常なだけね。普通はこの時間でしょう。」
桃色の軍服に身を包み、ブロンドの長い髪をなびかせる女性は
手に持った懐中時計にやれやれとため息をついた。
その後ろには二人の子供が立ち、二人は頷きあうと奥へと消えていく。
「ようこそ。四天王4軍の領域霧の迷宮へ。楽しんでもらえたかしら?」
妖艶に微笑む女性は髪をかき上げ、長い耳をあらわにする。
「私は四天王の一人、幻影のドゥリーミー=フローラ。楽しませてね。
あぁ、それとあなた達の自己紹介はいらないわ。
その人数覚えるの面倒ですもの。勇者の名前だけでいいわ。」
フローラはそう微笑むと華奢な椅子から立ち上がった。
椅子は霧となり消える。
「それでは…僕は絆の勇者チャーリー=ポウェルズ。
魔王を討つため、道を開けてもらいます!」
天の正虎を抜くチャーリーにキャシーも弓をつがえ、ベルフェゴも2本の刀を抜く。
なんとか一人で立つエリーも短剣を構え、
ジュリアンはファイティングポーズをとり、魔導師師弟も魔力の準備をし、
ジミーとアイアンは召喚術がいつでも唱えられるよう構える。
「消えた!?」
「ジュリアンさん後ろ!!」
不意に姿を消したフローラにベルフェゴの声が飛び、ジュリアンは前転する。
風を切る音が聞こえ、何か細長いものがジュリアンの居た場所を凪いだ。
殺気を感じたベルフェゴは左手に持った短い刀…脇差を首元で払い、何かを弾き飛ばした。
「燃え盛る車輪よ。邪魔するもの全て焼き払い突き進め!中級火魔法火炎車」
ポリッターの唱える火魔法が渦を巻き回転しながらフローラに襲い掛かる。
「水に映りしその姿は真円。水面に映るがごとく跳ね返せ!補助系水魔法水鏡!」
フローラの手元に集まる水が鏡のように迫る火球を映し、
飲み込むとポリッターに向け呪文が跳ね返った。
「物を飲み込み進みしその力を今!中級水魔法水流鉄砲!」
ネティベルがとっさに唱えた呪文が横から飛び出し、
跳ね返された呪文を飲み込むと蒸気を上げながら相殺する。
「呪文反射が使えるのね…ポリッター、気をつけて。
下手に相手に呪文を唱えてはだめよ。」
「はっはい!堅牢なるその岩岩よ。その強固なる力をわれらに与えよ。補助系土魔法巖阻」
ポリッターはネティベルの言葉に頷くと仲間に向けて呪文を唱えた。
黄色い光が一行を包み、防御力が上がる。
「全てを灰へ誘う炎よ!生きとし生けるもの全てを無に還すその破壊の力を我らに!
補助系火魔法猛火炎上」
続けて唱えると赤い光が炎のように踊りながら一行を包み、攻撃力を挙げた。
「基本は出来てるじゃない。そうそう。強いのと出会ったらまず補助魔法よね。」
フローラが手にした物を振るうと、
至近距離に居たジュリアンとチャーリーが弾き飛ばされた。
そのまま召喚術を使うアイアンの舞を邪魔し、手元に戻す。
たぐ
フローラの得物…ピースクライという薔薇の鞭を再び振るうとキャシーの矢を叩き落とす。
鞭に魔力を込めると鞭は直ぐざま棘に覆われ、先端に薄桃色の薔薇が咲く。
「さぁ。この香りにどこまで正気で居られるかしら?
特殊魔法、芳香水仙(パフュームナルキッソス)」
再び振るう鞭から薔薇の花弁が零れ落ち、純白の花へと姿を変えていった。
それと同時に濃いスイセンの香りが当たりに立ち込め、ネティベルはとっさに口元を袖で覆った。
「幻覚魔法ね…。吸わずに動いてその場を離れなさい!」
白し花弁の向こう、微笑むフローラを睨むネティベルは
ぼんやりとした表情の弟子を叩き起す。
同じように幻覚に陥っていないチャーリーはそばに居るベルフェゴを起こし、
ジミーとアイアンもキャシーやジュリアン、エリーを起す。
濃厚な甘い香りにウェハースは何か思い出しかけるが、幻覚が見え直ぐに忘れた。
どこからか飛んで来た短剣が頬をかすめ、はっと正気に戻る。
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