新しい短剣を構えるエリーはフローラの動きを見つめると傷にかまわず前に飛び出した。
「エッエリーさん!!」
いち早く気がついたチャーリーだったが、
エリーは振り向くことなくフローラの懐へと飛び込む。
振るった鞭が弾かれ、慌てて離れるフローラを追う。
「思ったとおりだ。遠距離タイプで近距離の戦闘は苦手だな。」
「4軍はサポート専門ですもの。それに私、接近戦嫌いなのよ。」
手元に戻した鞭で短剣を受け止めるフローラにエリーはにやりと笑った。
フローラもまた菫色の瞳を細め微笑む。
目が合った瞬間、エリーは目を見開き体を強張らせた。
「でも残念ね。私の目を見るなんて。私の戦闘が終わるまでとりあえず寝ていてもらうわ。
その傷で動かれて死んだりでもしたらあとで面倒なのよね。」
崩れるように倒れたエリーに一瞥をくれるフローラは指を鳴らし、霧の中へと隠した。
「そうそう、言い忘れていたけどあそこに見える砂時計がわかるかしら?」
エリーが姿を消したことに驚くジュリアンたちだったが、
フローラの言葉に巨大な砂時計に気がついた。
きらきらと輝く粉を落とす砂時計は光を反射し、美しいが装飾ではない。
「あれは私との戦闘時間の残り時間。
あれが落ちきる前に私に一定のダメージを与えればあなた達の勝ち。
落ちきっても気分しだいでは通してあげるわ。」
簡単なルールよ、と微笑む四天王にネティベルは眉をしかめる。
気配を探ればこの戦闘フィールドからわずかに離れたところにエリーの気を感じ、
それが無事であることを確認した。
「ずいぶんやさしいのね。嫌味かしら?」
「そうね。本気で私を倒すまで戦うと何人か精神逝っちゃうかもしれないわ。
もっとも、ほかの四天王も早く戦いたがっているから、だけどね。
それに私、戦うのとか嫌いなのよ。淫魔が怪我するといろいろ大変なの。」
隙をうかがうネティベルにフローラはため息をついて見せた。
怪我したくないの、と微笑むと淫魔の力によって眼を奪われている男たちを見る。
どこぞの継ぎ接ぎだらけは視界にすら映してはいない。
「祖父ソーズマン直伝!瞬速剣 火風鎌鼬!」
横から飛んできた炎の斬激にフローラは飛びのくと、
淫魔の呪縛からとかれたポリッターたちは頭を振り体勢を立て直した。
「あの一行に比べれば遅いわね。でも威力はなかなかあるんじゃないのかしら?」
斬激が避けられたチャーリーは次の攻撃をすべく力をためる。
その様子にキャシーは矢を構えると一度に5本の連射をフローラに向けてはなった。
土魔法をまとわせた矢に気がついたフローラは鞭を払うと地面から茨を呼び出し、それを盾に使う。
「少しはまともに動けるんじゃないの。あら?」
キャシーの矢を弾いたフローラは人数が足りないことに気がついた。
眉を寄せ、ふわりと地面に降り立つ。
不意に地面が盛り上がり、驚いたフローラはそのまま
ジュリアンの拳で突き上げられる地面とともに飛ばされた。
地面から出てきたのは黒魔道士の少年とところどころ汚れた格闘家の二人。
地面を呪文で掘り進んできたのかと瞬時に理解したフローラだが、
嫌な気配にとっさに防御をする。
フローラが吹き飛ばされた場所に向かって放たれた風鎌鼬を食らうと
吹き飛ばされながら何とか膝を突かずに乗り切った。
「絆の勇者ね…なるほど。」
呟く様に言うと納得したように微笑む。
「それじゃあ…これはどう?姿は似るも それは異なるもの
香は梅 白き姿に狂い 香りに惑わせ 彼のものを封じよ 補助系氷魔法 氷塊!」
次の攻撃を構える一行に向かって手を振ると辺りをまぶしく包む。
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