とっさに眼を覆うチャーリーだったが、周囲にいるはずの仲間が消え、
フローラでさえいなくなっていることに驚く。
それどころか、自分と同じ姿の人が9人いる。
いったいどういうことなのかと顔をめぐらせれば、ほかの自分たちは
困惑したように動き出した。
気配を探るがベルフェゴと違いうまく感じることができない。
 
「いったい何が…。っ!」
 突然一人が倒れるとその後ろから紅の塊が飛んでくる。
とっさに弾くと翡翠の瞳と目が会い、ぞくりと背筋をふるわせた。
繰り出された蹴りを後ろに飛びのきつつ避けるが、
腕に衝撃が走りチャーリーは目を見開く。
完全に避けて距離もあったはずが確かに蹴り出された感触がした。
 
「プップリアンティス!」
 思わず出た言葉に赤毛の女性は顔をしかめる。
そのまま自分を見下ろすとさっと髪をかき上げた。
「やぁねぇ。まぁいいけどシィルーズに見えるなんてねぇ。」
 その声にチャーリーは驚く。
先ほど自分達に呪文をかけた4軍四天王の女性の声。
だからか、と蹴られた腕を押さえた。
彼女とプリアンティスでは身長に差がある。
幻術でプリアンティスに見えていたとしても、
実体は先ほどから戦っている幻術使いの女性であるのだらか見えない部分があったのだ。
現に今目の前で話しているのさえ、口から聞こえるのではなく、
その少し上から声が聞こえている。
おそらくはそれが彼女の本当の口がある場所。
 
「あなたの身内に化けたつもりだったから、
 身長に差がないと思って手加減無しでけりだしちゃったわ。
 師匠よりも印象に残っている人物になっているなんてあの子が知ったら。」
「まさか祖父と戦ったことが!?」
 念話を使い、からかおうとするがこの部屋の影響か、
本人に何かあるのか念話が通じない。
眉を寄せ、ため息をつくフローラにチャーリーは構えた体制のまま睨むように見つめる。
「まぁね。ソーズマンは…幻術にかけたら面白いぐらいいい反応してくれたわ。
 直ぐ気付かれて危なかったけどね。」
 本当にあの一行はやり辛かったわ、と肩をすくめるフローラは
飛んで来た岩の刃を無造作に手で叩き落す。
もう一度念話を試すがやはり聞こえない。
 それにしても、とシィルーズの顔でフローラは笑った。
「あなたは誤算だっけど、他は楽しい反応を見せてくれてるわ。」
「皆!?」
 笑うフローラにチャーリーは慌てて仲間のところに行こうとするが、
飛んで来た鞭をよけ、フローラと向き合う。
「言っておくけど、私は分身じゃなく本体。その本体があなたを行かせると思う?」
 周囲にいる自分が苦しむ姿にチャーリーは早く駆けつけたいのを押さえ、刀を構えなおした。
フローラも鞭を手に戻すと掌に魔力を集める。
 
 
 チャーリーの刀に魔力が絡み、フローラもまた体を緊張させ……と、
突然足元が大きく揺らぎ、思わずフローラは方膝を付く。
チャーリーも同様にしゃがむ体制になり、不意に近づく気配に思わず戸惑う。
「これはまた…バーサーカーだったのね…。」
 地面に大きな亀裂を走らせ、見境なくあたりを破壊する一人の姿に
幻術の霧が離散してしまっていた。
半狂乱になり、フローラの分身を消している姿は普段の彼女からは想像も付かない。
「代々続く格闘家の一族には稀に強大な力を持つ者が生じると聞くけど…。
 あんな風に力に飲まれるなんてまだまだねぇ…。」
 霧がすっかり晴れ、広場が一望できるようになるとフローラは鞭を振るい、
ジュリアンの腕を打ちつける。
広場に立っていたのはバーサーカー(狂戦士)と化したジュリアンとチャーリー、
そしてキャシーとポリッターだけであった。
 ポリッターは慌てるように師匠であるネティベルに回復呪文を施しているが、
幻術による精神ダメージだけでなく、
分身の攻撃とジュリアンのおこした地面への衝撃波をまともに食らってしまったらしくなかなか目を覚まさない。
呆然と座り込むのはウェハースとアイアン。
もっともアイアンは足に怪我をしていることからやはり衝撃波を浴びてしまったのが原因らしい。
ベルフェゴは震えて座り込み、ジミーは倒れている。