接近戦を挑むジュリアンにフローラは内心舌打ちをすると
間合いを開けながら眠りの呪文を唱える。
「補助系魔法 睡蓮繚乱」
 あたり一面に蓮が咲き乱れ、開花と同時に眠りの魔法を解き放つ。
状態異常に耐性のあるチャーリーやジミー、アイアンは甘い香りに眩暈がするだけであったが、
ポリッター達は崩れるように眠りに落ちてしまった。
怒りに我を忘れているジュリアンもふらりとよろめき、
フローラは背後に現れると手に持った鞭の柄を首元に叩き込む。
「っ!」
 だが、ジュリアンは崩れることなく、叩き込むフローラの手を寸前で掴み、
そのまま地面にたたきつけた。
衝撃に息を詰まらせるフローラに構わず宙に放ると動けないでいる体に正拳を叩き込む。
吹き飛ばされ、体を強く打ちつけたフローラは立ち上がろうとするが思いのほかダメージが大きく、思うように動かない。
 
「天高くより降り注ぐ冷たき爪 その鋭さを持って敵を引き裂け 中級氷魔法 氷柱!」
 フローラの手から放たれた氷柱がジュリアンに当たり、そのまま弾き飛ばす。
氷柱に触れたジュリアンの体の一部は凍りつき、そのまま倒れて気を失った。
 無数の蝙蝠がどこからともなく現れると、呪文を放ったと同時に気を失ったフローラを囲む。
蝙蝠が飛び去った後にはすでにフローラの姿はなく、砂時計も全て砂を落としきっていた。
 
「勝った?」
 チャーリーは眉を寄せたまま呟くとはっとしたように辺りを見回す。
離れたところにエリーを見つけ、仲間が倒れているのを見ると目を閉じ、呪文に集中する。
「温かい光の風、傷を癒し内なる風をもって力を解放せよ 暗き夜を照らす闇夜の君 
 澄んだ光をもって内なる闇を打ち砕け 上級補助系光魔法 光風霽月」
 チャーリーの魔力が風となり、柔らかな光で一行を包み込む。
状態異常と同時に回復させる光の呪文を浴び、ジミーとウェハース、
エリー以外は目を覚まし、荒れた広場に驚く。
何より驚いたのはジュリアンで、まだ凍っていた腕を見ると何があったのか思い出したのか顔を青ざめた。
「ネっネティー!大丈夫です!?本当にごめんなさい…ごめんな…。」
 自分のせいでダメージを与えてしまったのを思い出したのか、
しゃがみこみ泣き出すジュリアンにネティベルは大丈夫だから、と頭を撫でる。
「それよりあなたのおかげで四天王の一人を倒したのだからこれぐらい大丈夫。」
 冥属性のおかげで呪文がほとんど効いていなかったエリー達に、
回復を唱えるネティベルはウェハースにだけは蹴りを入れ、目を覚まさせた。
 
 出口に回復の泉を見つけ、魔力と体力を回復させるとしばしの休憩をとることにした。
「四天王を倒せば何か印をもらうって聞いたけど…。」
「はい。僕もそれが気になって。まだ何かあるんでしょうかね?」
 包帯を巻き、腕の様子を見るネティベルはまだ落ち込んでいるジュリアンに
目を向けながらチャーリーに問う。
チャーリーも頷くがそれといって何かもらったわけではない。
 
 
 とにかく進めば何かわかるはず、とボーガンの様子を見ていたキャシーも頷くと立ち上がり、
次々にしたくしていく仲間をネティベルとチャーリーは見つめる。
ただ、一角だけに目を向けるとエリーは申し訳ないと身を起こしつつ傷に顔をしかめた。
「すまない。まだ傷が…。」
「いいのよ。宿に戻ったら傷薬があるからそれを塗ればすぐ治るわ。
 まぁ沁みるけど。ジュリアン、あなたもここにいなさい。骨に異常が起きてるわ。」
 怒りに任せ暴れたせいか、体のあちらこちらが悲鳴を上げているジュリアンは、
腫れた拳に目をむけ、俯く。
「私のせいで皆さんに怪我を…。」
「大丈夫ですよ。でもジュリアンさん、自分の体以上の力出しちゃだめですよ。」
「そうだよ!!ジュリアンさんが怪我したらあたしが心配するわ!!
 みんなそれが心配なんだよ!」
 いまだ自分を責めるジュリアンにチャーリーは笑って答え、
キャシーはそっとジュリアンの手に手を重ねる。
「あたしだって怒ったりすると力が抑えられなくって一度お家壊しちゃったんだよ!!
 ジュリアンさんだけじゃないから大丈夫!」
「家壊したってあなたねぇ…。」
 笑うキャシーにネティベルはあきれるがジュリアンが少し笑ったのにほっと息を吐いた。
「一応魔物の気配はないけど気をつけて戻ってなさい。
 この先にあるっていう次の四天王の扉を確認したら私たちも戻るわ。」
 いいわね、というネティベルにジュリアンは頷き、エリーに肩を貸すと来た道を引き換えす。
幻影の霧が晴れた今は迷路は沈黙し、完全に停止していたため着た時間よりは早く出られるだろう。
 
 
 おびえる様子のベルフェゴに目を向け、先に進む道をにらむ。
「この先に何か強い気配を感じる…2つ…3つ?わからないけど2つはそれほど大きくない。
 3つ目がとても大きくて…。」
「そういえばあのヒュドラの二人…4軍管轄下のって言っていたわね…。」
「もしかしてこの先にいるんでしょうか!?」
 時間がかかりそうだと気合を入れると先へと進む。