イルヤンとアナンタがユルングになったように光に包まれると巨大な三つ首のドラゴンが鎌首をもたげ、牙をむき出した。
「誰だよこいつ怒らせたの。せっかく寝てたのに…。」
「ユルング怒ッテル。マァ後数分ナライイカモネ。」
 右の赤い宝玉を光らせる首はアナンタの声であくびをし、
反対がわの蒼い宝玉を光らせる首はイルヤンの声で一行を見つめ、
中央の紫の宝玉を光らせる首はにやりと笑い、太い足で立ち上がる。
 鋭い爪を構えるヒュドラにウェハースは腰を抜かし、
キャシーの具合を見るネティベルは戦闘に出ないほうがいいとなだめ、
現在戦っているのはチャーリー、ネティベル、ポリッター、ベルフェゴの残り4人だけとなってしまった。
 
 連続して噛み付きをするヒュドラは避ける兄弟に体を翻すと大きく尾で地面を凪いだ。
跳ね飛ばされた岩をポリッターが打ち落とすが魔力が足らず、
完全に消滅させることが出来ない。
「チャーリー!ベルフェゴ!!私の魔力をサポートに回すからその額の宝玉に力を注いで!」
 ネティベルの声に2人は頷くと噛み付く首を避け、その首にチャーリー飛び乗った。
 
「兄ちゃん!危ない!」
 
 首を駆け上ろうとしたところでベルフェゴの声が響き、
チャーリーはアナンタの牙をかろうじて避ける。
アナンタはそのままユルングの首に噛み付くが悪びれた様子はない。
「アナンタ痛いじゃないノ。」
「そのまま食いちぎってやろうか。」
 体を震わせチャーリーを振り落とすユルングにアナンタは牙をむき出しにして唸った。
イルヤンはとくに気にした様子もなく首を振り、口を閉じる。
 
「師匠!結界を!!」
「先生って言いなさい!!水に写りしその姿は真円。水面に写るがごとく跳ね返せ!
 補助系水魔法水鏡!」
 ポリッターに一喝するネティベルが魔法反射を唱えるとイルヤンの口から放たれた魔法がチャーリーから跳ね返り、イルヤンの首に戻された。
やっぱり特性はそのままなのかとチャーリーは離れながら考えると、
その隣をベルフェゴが駆け抜ける。
 飛び掛りながら刀を振りかざし、イルヤンの宝玉を狙い、それをアナンタの首が止めに入った。
「ベルフェゴ危ない!!」
 チャーリーの声と同時にアナンタの口が開き、ベルフェゴに噛み付く
 
 
…寸前で光に包まれ、縮む姿にベルフェゴは勢いあまってそのまま転がった。
「あ〜〜あ。もう時間か。」
「トリアエズ生キ残ッタカラ証アゲル。ヒュドラ相手デ生キ残ルノ意外ト凄イ事。
 オメデトウ。」
 一瞬ユルングの形となってすぐに分かれると、
先ほどの戦闘で怪我したところをそのままにアナンタとイルヤンが現れ、
一握りほどある紫色の宝石を投げてよこした。
大きく伸びをする2人に何かあるのかと構えるベルフェゴだったが、投げられた宝石を受け止め目を瞬かせる。
『イルヤン、早く帰って兄ちゃんらに報告して海でも行こうぜ。』
『ダカラ、ジキタリス様ヨリ年上。兄チャンハオカシイト思ウヨ。』
 大扉の脇に向かって歩く2人に4人はぽかんと見送った。
姿が見えなくなると大扉の前に魔法陣が現れ、淡く輝く。
気絶したままのジミーとアイアンを背負うキャシーと
腰を抜かしていたウェハースを先に通し、一行はモスペカズの前へと戻っていった。