ジミーの方に目を向ければアイアンが回復薬を持っていっているが
これ以上戦わせるのは危ないとベルフェゴを置き、その場を離れ様子を伺う。
ふと反射的に体が動き、刀を前に構えると重い蹴りが入り、
そのまま吹き飛ばされ何とかこらえる。
今のは勇者の紋から得た経験で動けたと大叔父に感謝した。
 
「うぁあああ!!!」
 突然聞こえた叫び声に体勢を直すチャーリーは気がつけば飛び出していた。
刀を振りかぶりながら飛び掛るチャーリーだったが、
ユルングはベルフェゴを踏みつける足をそのままに正確に喉を掴みあげてしまった。
「あぁ、なんていい響きの声を上げるのかしラ。ぞくぞくしちゃウ。」
 ベルフェゴにかける体重をさらに増やし、
その叫び声に恍惚とした表情を浮かべるユルングは悩ましげなため息をついてみせる。
怒りが収まったのか元の口調だがその猫なで声のような口調に
まだ戦闘中の一行は背筋を凍らせた。
喉をつかまれたチャーリーはどうにか刀を持ち直すとユルングの腕に突き刺す。
固い感触にさほどダメージは通らなかったようだが
ユルングはそのまま投げ捨てるようにチャーリーを投げ飛ばし、傷ついた腕を見る。
薄く切れた所から流れ出る血を目に止めると口をつけ、自分の血を舐めとった。
 
「久しぶりの味ネ。虫とかと違って赤い血なのは人間だけじゃないのヨ。
 み〜〜んな同じ赤い血ヨ。」
 血に濡れる唇をそのままに笑うとベルフェゴを蹴り上げ、チャーリーの方にと蹴り出した。
「ん〜いい悲鳴。あまりにもヨ過ぎてイっちゃうワ。」
 微笑むユルングの気味の悪さにネティベルは鳥肌を立て、
迷路の陰に隠れて震えていたウェハースも嫌悪感に襲われる。
このままでは魔剣士たるもの廃ると勇気を奮い起こして立ち上がると物陰から姿を現した。
「さぁもっといい悲鳴で啼いてごらんヨ!」
 扇子を取り出し、軽く振るうと刃が飛び出す。
チャーリーに斬りかかるユルングだが、剣に阻まれじろりと剣の主を見る。
がたがたと震えるのは魔界一のだめな魔剣士。
人間よりは頑丈だろうと手加減せず、渾身の蹴りをかまし弾き飛ばすも魔剣に威力を吸われ、
跳ね飛ばすにとどまってしまう。
 
 
アイアンはジミーから離れるとユルングの扇子を掻い潜り、長い足で下から蹴り出した。
力はないが顎に当てられたユルングが怯んだ隙に手を軸にして大きく足を振り回す。
まさかアイアンが肉弾戦をするとは考えていなかったネティベル達は驚き、
すぐさま援助に回った。
 
 最初こそ怯んだユルングだったが、すぐさま足を掴むと大きく放り投げ、
腹を殴りそのまま吹き飛ばす。
「女性の胴体を殴るなんて感心できないわね。」
 ネティベルが駆け寄り気絶したアイアンに回復呪文を唱えるとユルングは不敵な笑みを浮かべる。
「あラ?あたいにとって男も女も平等なノ。戦場ではね、男も女も関係ない…
 あたいをどれだけ満足させられるかが大事なのヨ。」
 笑うユルングは腰から砂時計を取り出すと残りわずかとなった上の砂に不服そうな声を上げた。
見たところ残り十分ほどかと見るキャシーはポリッターと目配せし矢をつがえた。
「アイアンちゃんいじめる悪い人絶対許さない!!」
 一度に5本の矢を放つキャシーにポリッターが風魔法で速度を上げ、
四方から襲うよう矢を調節する。
アナンタの攻撃が十分回復していないキャシーだったが、
避けるユルングに間髪いれず同じように矢を放つ。
「うるさいわねェ。小うるさい小娘は黙ってなさイ!」
 何本か掠めるのに苛立つユルングは指を構え、そのまま振り下げた。
やや遅れてキャシーを斬激が襲い、構えた爪から放たれたのかとポリッターは火の玉を放ち、土煙の立つ場所へと体を向ける。
「キャシーさん大丈夫ですか!?」
 飛ばされた方へ駆け寄ればかろうじて戦闘不能にはなっておらず、
キャシーはゆっくりと立ち上がった。
「あのおじさんなんて力なの!?!」
 小さく呟いただけだとは思うのだが、元から声の大きなキャシーの声はユルングに聞こえ、
持っていた扇子にひびが入る。
 
「このガキャ!あたいのどこがおじさんだというのヨ!どっから見ても麗人でしょうガ!」
 怒りをあらわにするユルングの言葉に全員微妙な空気が流れ、
ユルングの米神に怒りマークが増える。
「どいつもこいつも…見る目がないのネ!!いいわヨ!
 どうせ後数分…あたいの真の姿見せたろうじゃなイ!」
 怒鳴るユルングは額の宝玉に触れると目を閉じ、全身に力をこめた。