なんとか朝日を背後に宿へと戻ったネティベル達は、
手当てもそこそこに各々のベッドに倒れこむようにして眠っていた。
エリー達は昨晩帰ってくると戦闘が終わったのかと、
出迎えた亭主により手当てを施され、仲間達を待っていたものの
痛みから解放されたことと痛みによる疲労が大きく、ソファーで眠ってしまっていた。
夕方近くになり、目を覚ましたネティベルはまだ疲労が残す体をそのままに
薬草を混ぜ合わせ始める。
パシとヘイラーに薬草を頼んでいるためまだ帰ってきていない。
打ち身に効く薬や切り傷の薬…と作らなければいけない薬を考え、
調合しているとひかやめなノックが聞こえ、亭主の声がする。
中断し、戸を開ければ大きな鍋を持った亭主がにこやかに立っていた。
ゆるく結んだ髪を三角巾で抑え、エプロンをまとう姿にネティベルは警戒することも忘れ、中へと道を譲った。
「起きたんですね。よかったよかった。
あ、傷の回復が早くなるようにと薬膳粥です。妻が生前…
あ、魔界人ではなく人間だったのでとっくの昔に寿命で先に逝ってしまったんですよ。
彼女が作っていたものをまねてみたのですが…味のほうはちょっと自信ないかな?」
ははは、と笑う亭主は中に入ると暖炉前の平机に鍋を置いた。
突っ込む気力が余り無いネティベルだったが、亭主があけた中身に驚き、
亭主が入れた器に目を落とした。受け取り、一口食べると確信したように目を見開く。
「ははは。驚きましたか?妻が娘に作っていたんですよ。
まぁ娘といっても魔界のものと人間の間には子は出来ませんので
血は繋がらない娘ではないですが。
あの子も作り方を聞いていたからもしかしたら同じ味だったかな?」
笑う亭主は懐からペンダントを取り出すと開けずに大切そうに見つめ、
静かに薬膳粥を食べるネティベルに目を向けた。
「ユキの孫だね?部屋を通すときに似てるなぁって。あの子は元気?」
「祖母は…数年前に寿命で…。じゃあ貴方が祖母の言う少し変わった父…なのかしら?」
亭主は首を傾げるが、その目は少し悲しげでネティベルの言葉にそうか、と頷き、そっと笑う。
「そうだな。あの方にも言われたよ。淫魔なのに人間と婚姻をかわして、
子もユキを最後に誰ともの間にもつくってないからね。
淫魔なのに子が少ないなんてリリスに呆れられてしまったよ。」
笑う亭主は階下から聞こえるベルの音に鍋を置いて部屋を立ち去る。
残されたネティベルは器を空にすると材料が届くまで一休みすることにした。
『……!!………!!』
が、階下から聞こえる女性の声と亭主の声に邪魔され眠れない。
そもそも一応何階分か間にあるのに声が聞こえるということは
それほど女性の声がでかいということ。
イングリッシウ語だと思われるため、魔界人かと考えるネティベルは仕方なく体を起こし、そっと扉を開く。
階下では鮮やかな翠の髪の女性が笑い、亭主があきれている。
ネティベルの姿に気がついたのか、亭主に手を振る女性はどこかで見た
誰かに似ている様な気もしないでもないが、部屋に戻り一行が起きるまで眠りについた。
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