チャーリーが目を覚ましたのはまだ暗い明け方。
丸一日眠ってしまったのかと驚くチャーリーは居間に行くと、
先に目を覚ましていたらしいヘイラーがなにやら怪しげなガラスを傾け、
それを混ぜ合わせていた。
「おはようございます…。朝早いですね。」
「あぁ、目が覚めたか。気分はどうだ?」
 薬瓶に液体を移す姿にまさかハーイポションなのかな?
と考えるチャーリーだが、ヘイラーはそのまま器具を片し、チャーリーに茶を入れる。
 
「皆が寝ている間に面白い客が来ていたぞ。」
「面白い客…ですか?」
 お茶を受け取り、冷ますチャーリーはヘイラーの言葉に気配を探るがやっぱりうまく探れない。
 
「兄ちゃんおはよ。いたたたた…」
 2人しかいなかった居間に声が聞こえ、ユルングに踏みつけられた腹を押さえる
ベルフェゴがチャーリーの隣に腰を降ろした。
ヘイラーの差し出す出来立てのポションを受け取るとそれを飲み、苦味に眉を寄せる。
「ベルフェゴ、傷は大丈夫?」
「大丈夫。それより兄ちゃん。ロードクロサイトが下の階にいるよ。
連れ?もいるような感じだけどよく掴めない。」
 口直しにお茶を飲み、その熱さに地団駄を踏むベルフェゴを驚いたように見つめる。
もう一度意識を集中させるベルフェゴは一緒にいると思われる気配に眉を寄せ、
なんだろうかと記憶を探るがよくわからない。
ぼんやりと明るくなる空だが、雲が多く雨が降らなきゃいいなと考えた。
 
「あれ?ロードクロサイトじゃない?なんかすごく似ているけど違うような…。」
「ロードクロサイト?あの爺を迎えにいったときにいた人外か?」
 じっくりと気配を探りなおすベルフェゴにチャーリーも真似てみるが
気配を掴むのが苦手でわからない。
ヘイラーは首をかしげると違うと手を振った。
 
「面白いって言うのは吸血鬼の夫婦だ。旦那はこてっこての吸血鬼、
 って外見なんだが女の方はノリがあの踊り子みたいな感じで頭はよさそう
 というか相当生きてそうな感じで話すと面白かったぞ。
 主に旦那の惚気と息子の愚痴だったが。」
 つい話していたら徹夜してしまった、とヘイラーは笑い顔を見合わせる2人を困惑させた。
日が昇り、仲間達が目を覚ますとネティベルはエリーの傷を確かめる。
亭主の治療がよかったのか、早くも傷がふさがりかけている。
 
 
 冷めてしまった薬膳粥だったが、ヘイラーが温め一行に配ると四天王戦の反省会を行った。
「そうだ!!ジュリアンさん、手に呪布を巻いたらどうかな!?!」
「布ですか?」
 ジュリアンの話になるとキャシーはそうだと思いつき、
自分の荷物を探り始め中から細長い布を引っ張りだした。
なにやら模様のような文字のようなものが書いてある布はやや古びていて使い古した様子が伺える。
「手を守るための防具ね。確かにそれがあれば力の限り暴れても体に異常は起きないはずよ。」
 なかなかいい防具ね、と確かめるネティベルはジュリアンの手に巻いて具合を見てみる。
ジュリアンも拳を開き、具合を確かめると拳を握り締めた。
「大丈夫そうです。次の四天王戦では皆さんのためにがんばります!」
 すっかり元気を取り戻したジュリアンにチャーリーたちはほっとするとヒュドラ戦を振り返った。
 
「オカマな男?なんだそれは。」
 アナンタ・イルヤンは見たことがあるため、戦いでの話をしたが
3人目の人物…ユルングを説明したところでエリーは怪訝そうな顔をネティベルに向ける。
ジュリアンもなんだろうかと首をかしげ、エリーと顔を見合わせた。
「最終的には大きなドラゴンになって大変だった…。」
「そういえば…アナンタとイルヤンは仲がよさそうでしたけど、
 ユルングは仲間に噛み付かれていましたね。」
 ベルフェゴの言葉にポリッターはイルヤンを守ろうとしたアナンタと、
ユルングに噛み付いたアナンタを思い出しながら呟いた。
「ヒュドラっていっても一枚岩じゃないってことね。
 人格というか人がばらばらだから好き嫌いが発生するというか。」
 やれやれというネティベルにアイアンは首をかしげ、いわじゃないよ?という。
突っ込むのが面倒なエリーはふと、ジミーの様子に目を留めた。
「メイデン、具合が悪そうだが…大丈夫か?」
「――。―――。―――。」
 どこか具合が悪そうなジミーは大丈夫と首を振るが窓辺に行き風に当たる。
「そういえば戦闘中も具合が悪かったそうだけど…大丈夫なのかしら?」
「精霊召喚をした反動じゃないでしょうか?
 下級精霊とはいえ大変だと聞いたことがあります!」
 そういえばと思い出すネティベルはあの黒い塊を思い出し、
ポリッターは精霊召喚じゃないかというが具合が悪そうだったのはその前だとネティベルは思う。
「ジミー、あのときの黒い影…なんだか心当たりあるかしら?」
「――。――――――?」
 首をかしげるジミーだが、何を言っているか相変わらずわからず、
唯一の翻訳手段のアイアンを見る。
だが、彼女も首をかしげ困ったような表情を浮かべた。
「ジミーくんのおこえ、なんだかきこえづらいよぉ〜?どうしたのぉ?」
 アイアンの声にジミーは驚いたように顔を上げ、のどに手を当てた。
召喚術の詠唱だけは聞こえるが普通の言葉が聞こえない。
詠唱中はほかの言葉が出ず、慌てるジミーだが突然開いた扉に一行は驚き、硬直する。
 
「その疑問教えてあげるわ!いますっごく暇なの!」