扉を思いっきり開いたのは鮮やかな翠の髪をした女性。
その後ろには困った様子の亭主と陰に隠れて顔が見えない男が立っていた。
「私はエメラルダ!ねぇねえ!君今精霊の言葉で話してたでしょ!
 めっちゃ長生きしてて人間でその言葉使えるの見るのひっさびさよ。
 ねぇ?クラトカ?最近じゃあくぅちゃんとあの子以外使ってるの見たことないよね?」
 元気いっぱいな彼女は警戒する一行に構わず中に入るとジミーに詰め寄り、
後ろの男に向かって呼びかける。首をかしげる男にエメラルダは手を合わせると
イングリッシウ語になり、その言葉にクラトカは頷く。
「クラトカってばジャポネーゼ語苦手だったの忘れてたわ。だってひっさしぶりに話すもの。」
 イングリッシウ語はウェハース以外理解できないが、
ウェハースと亭主の2人が今にも砂を吐きそうになっているのに
この夫婦が何を話しているか大体わかる大人の女性3人。
見当もつかない未成年組みとチャーリーだが、どこかで見たことのあるような顔にどこで…
と思い出すが彼女のインパクトが強すぎて思いつかない。
 
「ねぇねえ!それで君。見たところ…ハデスの眷属とかヴァーユの眷属に
 どこか似てるけど…知り合い?」
 小首をかしげるエメラルダだが、ジミーの困惑した雰囲気と相変わらず聞こえない言葉に頷き、腰に手を当てた。
「なぁ〜るほどねぇ。そっかそっか。んじゃあ後であの子にハデスかヴァーユに
 精霊化止めてもらうように伝えておいてもらうわ。
 本当はあの子にやってもらうのが一番だろうけど、まだ剣の所有者じゃないし…
 くぅちゃんに怒られちゃうからなぁ。やっぱりここはハデスが一番か…。」
 ジミーの言葉に頷くエメラルダはクラトカに話し、頷く彼に飛びつく。
無数の蝙蝠を呼び出すとクラトカはそれにまぎれ、蝙蝠となって飛んでいった。
「くぅちゃんに見つかるとす〜ぐババア、とかやかましいとか言うから
 見つかんないようにしないと。
 あの子、すぐ見つかるかなぁ。キル君でも大丈夫だけど…。」
 ん〜と考えるエメラルダに全員目を瞬かせる。
今何か聞いたことのある名前が出たような。
 
「くぅちゃんってばずるいのよ!めっちゃおいしい血の子をそばに置いてるし、
 キル君とか可愛い子供も傍にいるし。
 も〜。今度フローラちゃんに頼んでこっそり泊めて貰おうかな?
 あの子だったらすっごく強い魔力を持った子が出来るんだろうけど…
 淫魔の力借りると大変なのよねぇ。可愛い子になるだろうけどねぇ。」
 先日戦っていたフローラの名前が出たことで確信する。
ネティベルとエリーにとってはキルも四天王の一人だと知っているために
2人の名前が出たことで息子の名前を考える。
ただ、思い浮かぶ人物とくぅちゃんという名前がまったく一致しない。
 
 
 無数の羽ばたきが聞こえ、窓からクラトカが戻ってくる。
どこか驚いたような彼の言葉にエメラルダは驚いたように声を上げた。
「早くに見行かなくっちゃ!ごめんなさいね。くぅちゃんが彼女連れで町歩いてるって!
 これは大事件よ!じゃあね!」
 止めるまもなくクラトカと共に蝙蝠となり空へと羽ばたく彼女は
町のどこかへと飛んでいってしまった。
嵐のようなエメラルダに一体何から突っ込めばいいのかと、エリーは頭を抱える。
 
「ねぇ!精霊化ってなぁに!?!」
 キャシーの声に顔を上げるエリーはおろおろとするジミーを見る。
彼も彼で彼女の勢いに押され、何もいえなかった。
「精霊っていうのはそもそも火・水・風・土と光・闇のそれぞれの属性を持った存在ね。
 一説によれば下級・中級・上級・王からなっているというのを聞いたわ。
 ジミーは確かサラマンダーとアーシーズが呼べたわね。
 火の精霊と土の精霊の中級だったはずよ。」
 ポリッターの本を取り上げ、手早くめくるネティベルはすぐに項目を見つけ、
机に広げる。
 其処には各階級ごとの名前と特徴が記されているが、王のことは不明と書いてあった。
「メイデンは確か冥属性と風属性だったな。関連があるかわからないが…
 さっきの吸血鬼が言っていたのは闇の精霊王と風の精霊王の名前じゃないのか?」
 エリーの言葉に納得するネティベルとポリッターだが、
まったくついていけていないベルフェゴをはじめとする大半が首をかしげ、
当の本人もわかっていないように首を傾げる。
「まぁ大丈夫そうなら何よりだ。ちょっと回復薬を買いにいってくる。
 何か欲しいものがあればついでに買うが?」
 このまま話しても誰もわからないのだから、
と話をきるエリーはコートを羽織ると袋を手に持ち扉へと向かった。
「あ、あの…俺も行く…。防具買いたいから…。」
 その背に立ち上がったのはベルフェゴだ。
驚いたようにエリーはまじまじと見つめ、何も言わずに扉を出る。
ジュリアンも行くというとその場を立ちさった。