一部始終をイングリッシウ語で話されていたために詳細はわからないが
何か話し終わったのか、立ち上がるエメラルダ達とロードクロサイト達に
エリーは投げられた短剣を見る。
まさかこんなところで出会うとは考えていなかった分、
驚きと戦闘時の焦りが汗となって流れる。
 出る間際に向けられたシィルーズの視線は自分達だけに向けられ、
ジュリアンとベルフェゴは冷や汗に下を向いている。
 
「とりあえず…表の看板どおり殺されることは無いらしいな。」
 ごほん、と咳払いをするエリーが大通りを見ると道草を食うロードクロサイトに対し、
怒るシィルーズの姿が見える。
とにかく落ち着こうとコーヒーを優雅にすすり、ベルフェゴもジュースを飲む。
 
「魔物の四天王でもデートするんですね!」
 びっくりした、というジュリアンにエリーとベルフェゴは同時に噴出し、むせこんだ。
ベルフェゴにとってはシィルーズの正体がわかっているがロードクロサイトのことは知らない。
エリーにとってはロードクロサイトと四天王長であるシィルーズしか知らないという状況。
ジュリアンにとってはシィルーズが四天王長だと名乗ったことしか知らないのだから、
2人の様子に首をかしげた。
「あ!そういえばロードクロサイトさん、イングリッシウ語でしたっけ?
 あれ使ってましたね!エルフさんも使うんですねぇ。」
 うなるジュリアンにエリーは言うべきかどうか悩むが、
ここはネティベルと相談しようと咳払いで咽るのを止めた。
長居は無用だと、まだ咽るベルフェゴを引っ張りこの一連のことを報告しようと宿へと戻っていった。
 
 
「プリアンティスが町に!?」
 驚くチャーリーの言葉に正体をばらしたら兄はひっくり返ってしまうのでは、
とベルフェゴは思う。
秘密を持ったことが無いだけに非常にもどかしい、が破ったが最後。
容赦なくあの消滅させる魔法で自分らを吹き飛ばすだろうとぐっとこらえた。
「ちょっと待ってください…。ロードクロサイトさんって…
 もしかしてエルフではなく、魔物…だったと言うことは…。」
 どうにか情報を整頓しようとポリッターは唸り、ジミーは静かに一行を見る。
「でも!魔物さんだったらお山登れないんでしょ!?!」
 首をかしげるキャシーに珍しくアイアンが手を叩いた。
「ローくんってぴっかぴかなまほうつかえるんでしょ?
 だからそれでウィースみたくまもったんじゃないのぉ?」
「おっおいら…ウィースじゃなくてウェハース…です…。あの…。」
 どうせ聞いても仕方が無いだろうと思っていたネティベルとエリーは
珍しくまともな回答が出たアイアンに思わず明日の天気を確認する。
嵐は来なさそうだが、槍が降るかもしれない。
「光魔法で守護…。大叔父さんなら出来ると思いますが…。
 ちょっと確認させてください。四天王は先日のフローラ、プリアンティスが
 現在わかるところで、魔王についての情報はまだ無いんですよね。
 それで大叔父さんはロードクロサイトさんに仕えているようで…。
 実は天界に行った際、神様に直結するという天使さんから話をされたのですが、
 いまいちわからなくて。」
 そこにキルと魔王ロードクロサイトが入る、とわかっているエリー達は
確かチューベローズも四天王だったなと思い当たり、
今後の四天王戦について誰が出てくるか見当をつける。
 
「なんでも大叔父さんはこれまでで最強の勇者であり、現在は最凶の裏切り物だと。
 魔の神に仕える僕に成り下がってしまったといってました。
 もしかすると…もしかするとですがロードクロサイトさんは
 魔王…ローキなんじゃないでしょうか?
 そう考えれば大叔父さんは四天王か側近ということが考えられて…。
 となるとプリアンティスとロードクロサイトさんが町で親しそうにしていても、
 兵と主君なら納得が出来そうなんですが…。」
 こんがらがって来ました、というチャーリーにネティベルとエリーはアイコンタクトをかわし、どちらとも無く頷いた。
「チャーリー君。ひとつ謝らないといけないわ。
 ずっと隠していたことというか実際のところ私達にも確証があるわけじゃないのよ。」
「前にノーストラルに行った際、皆城に泊まっている間ホテルに戻っていたんだ。
 その時、ロードクロサイトが古い絵に描かれていた男と類似していることに気がつき、
 伝承で伝えられていた魔王じゃないかと聞いたことがあった。
 あっさり頷くので罠じゃないかと警戒していた。」
 隠していてすまない、というエリーにチャーリーたちは驚き、
ベルフェゴは思わず座っていた椅子から転げ落ちた。
何あの変態、と罵るがますます言えない。
人間を裏切ったとはいえ一応伝説の勇者。
裏切ったことに関してはさまざまな思いがあるであろう兄も、
噂で聞いていた銀月の勇者には尊敬のまなざしを持っていた。
だけに…言えない。
「先ほどのプリアンティスとの行動でやっと確信が得られたんだ…。
 言うのが遅くなってすまない。」
 再び謝るエリーにチャーリーは我にかえると頭を振った。
ジュリアン達はまだ衝撃から戻ってきていないがジミーだけはそうか、と頷き
考えることを放棄したであろうアイアンは耳飾を弄っている。